TRIGGER!2
 従業員二千人を抱える企業・峯口建設は、表向きこそ事業を幅広く展開している大企業だが、世界の裏側を知る第一人者でもあるのだ。
 自らを人を見る目があると豪語する社長の峯口は当然、何も素性の知れない人間を仲間に引き入れる事などしない。
 もし仮にそんな事をしたら、自らの存続も危ぶまれる。


「けれども彩香さんの場合は、社長は殆ど素性の知らないままこちら側に引き入れました。私は最初、そんな社長の気まぐれには本当に呆れたんですが・・・」


 その時、峯口はこう言ったのだそうだ。


『俺はな、あいつの目が気に入ったんだよ。あいつが誰であろうと俺は構わねぇ。あいつはな、きっと、ここに来る運命だったんだ』


 彩香は目を見張る。
 このフレーズ、どこかで聞いた事がある。


「それでも私は、社長の許可を得た上で彩香さん、あなたの素性を調べました。ですが」


 風間はここで少し、言葉を切った。


「あなたの過去は、どこにもありませんでした・・・」


 峯口建設の組織力をもってしても、彩香が今までどこで何をしていたのか、微塵も把握する事が出来なかったのだ。
 風間は、色とりどりのネオンが灯る繁華街の街並みを眺める。
 マンションの五階でしかないこの高さからでも、ここから見る街の夜景は綺麗だった。


「ーー今、分かりました」


 風間は呟く。


「あなたの過去がないのは、あなたの頭の中から過去そのものが消えていたからなんですね」
「そこまで言っていいのか、隼人」


 まだうずくまる彩香の隣にしゃがんでその肩を抱きながら、ジョージは言った。


「いいんだよ、ジョージ。俺はもう、彩香を仲間と認めている。どんな過去があろうが、その気持ちは変わらない。・・・ただ」


 顔を上げてこっちを見上げる彩香に向かって、風間は笑顔を作る。


「過去の幻影に怯えて負けるのは、自分自身に負けたのと一緒ですよ、彩香さん。それだけは、断固として認めません。私もジョージも、持てる力の全てを持ってあなたを守ります。だから、戦って下さい。私はーー俺達は、何があっても、お前を信じるから」


 風間はそう言って、彩香に向かって手をさしのべた。
 真横で微笑むジョージの顔を見て、それから彩香はゆっくりと風間の手を取る。
 グイッと力強く引き上げられ、彩香は立ち上がった。
 そして、微かに笑顔を作る。


「その言葉、そのままそっくり隼人に返すよ」
「もちろん、承知の上です」
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