TRIGGER!2
 風間も、過去との決着を付ける決心をしたのだ。
 彩香がまだ彩香でいる以上、その手助けをしない訳には行かない。
 今は自分の過去よりも、そっちの方が最優先だ。


『過去は消えないのよ。何があっても』


 友香が言っていた言葉が、頭をよぎる。
 本当に、そうなんだ。
 薬に頼って過去を消そうなどと、所詮逃げているだけだ。
 ましてや、その薬を乱用して他人の過去を消そうなど。
 許せる事ではない。

 
「取り敢えず、社長には報告します」


 風間はそう言って、スーツの内ポケットから携帯を取り出してリビングに移動する。
 峯口はまだ風間が戻ってきた事を知らない筈だ。
 さぞや心配しているだろうから、早めに無事を知らせるのはいいことだ。
 彩香はそんな風間を横目に、ふと、窓の外に視線を移した。
 夜明け前だというのに、何となく街が騒がしい。
 サイレンが絶えず鳴り響いているのは、この街ではごく普通の事なのだが。


「やたらと騒がしくねぇか?」


 彩香は立ち上がり、手摺りから身を乗り出すようにして繁華街を見わたした。
 それと同時に、パトカーと救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながらマンションの目の前を走っていく。
 深夜をとっくに過ぎているこの時間帯にかなり近所迷惑なサイレンは、耳を澄ますと風に乗ってあちこちから聞こえてきた。


「何だよ、デカいケンカでもあったのか?」


 ベランダに出た彩香の隣に立って、ジョージが辺りを見渡している。


「なんかヤバい感じがする」


 心なしか緊張気味に、彩香は言った。
 そこへ、風間もベランダに出て来る。


「社長と連絡が取れました。取り敢えず今までの事を簡単に報告して・・・」


 風間は少し苦笑する。


「怒られました」


 それを聞いて、ジョージはニヤリと笑いながら頭の後ろで手を組んで。


「相変わらず隼人はオヤジにゾッコンだなぁ。どこがいいんだあんなヤツ」


 風間は咎めるように、そんなジョージを軽く睨み付け。


「勝手に連絡が取れなくなった俺達の来月の給料は減額だそうだ」
「何だよそれ!?」
「ま、当然だな」


 彩香は腕組みをして、うんうんと頷く。
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