TRIGGER!2
 その時、風間とジョージが彩香を挟んでカウンターに座る。
 ジョージが佐竹に向かって軽く手を上げて。


「よぉ兄ちゃん、久しぶりだなぁ! いっちょ俺に瓶・・・」
「瓶ビール、王冠付きですね」


 佐竹は笑いながらジョージに瓶ビールを出した。
 そして、風間に向き直り。


「ご注文は?」
「俺はこれで」


 そう言って、風間は彩香の前に置いてあったグラスを持ち上げた。


「ちょっ・・・隼人」


 この店の酒は。
 彩香が止めるのも間に合わず、風間はマティーニを飲み干す。
 そしてグラスをカウンターに置いて。


「何も変わってない・・・素晴らしい味ですね」


 笑顔を佐竹に向けながら、風間は言う。
 佐竹はありがとうございます、とお礼を言った。


「変わってない、という事は、腕が上がっていないということですか、風間さん」
「いえ、そう言う意味じゃありませんよ。俺の味覚がグレードダウンしてるんです。マティーニを飲んだのは三年前、この店でしたから」
「知り合いなのか?」


 彩香が聞くと、風間は頷いた。


「佐竹さんはこの店が“Agua azul”だったころのバーテンダーですよ。特に彼の作るマティーニは、世界大会でも毎回上位に入る程の腕前です」
「あははは、まだまだ僕の上が居るって事ですよ。それにしても、風間さんと彩香さんが知り合いだなんて思いませんでした」


 グラスを拭きながら、佐竹は笑う。
 久しぶりですね、と話しかけている風間のスーツの裾を引っ張って、彩香は耳打ちをする。


「大丈夫なのかよ、この店のカクテルは・・・」
「言ったでしょう、彩香さん。彼のマティーニは世界有数の価値があります。せっかく出して頂いたのに飲まないなんて、勿体ないですよ」
「彩香さんになら、何杯でも作りますけど」


 ステージでは少女がまだ踊っている。
 そのショーに熱狂する、フロアの若者たち。
 彩香にはそれら全部が何故か、虚しく見えた。
 もしこれが、あの薬のせいでこんなに盛り上がっているのだとしたら。
 それはあまりにも、不毛だ。


「・・・貰うよ」


 目を伏せて彩香が言うと、かしこまりました、と佐竹は笑う。


「なぁ彩香、どうせならあのカワイコちゃんの衣装、超ミニにすればいいのになぁ!」


 カウンターに背中を向けてステージに釘付けになっているジョージのスネに、彩香は一発蹴りを入れる。
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