TRIGGER!2
 少し待つと、佐竹がカウンターにマティーニのグラスを置いた。


「どうぞ、彩香さん」
「あぁ、サンキュ」


 そう言って彩香がグラスに手を伸ばそうとしたその時、いきなりステージの照明が消えた。
 何事かとステージに目を向けるが、客たちは驚いた様子もなく、流れ続ける音楽にノリまくっている。


「まさか本当に脱いじゃう、とか!?」
「ジョージ、右だ」


 風間がたしなめるように言うとジョージは一瞬で真顔に戻り、右側の空間を睨み付けた。


「分かってるよ」


 彩香から見て右手にジョージが立っている。
 風間につられて彩香がそっちを向こうとする一瞬の間に、視界の隅に動く影を見た。
 想像出来ないくらいの速さでジョージが動き、その影に向かっていく。
 だが影は上手くジョージをかわした。


「チッ!」


 舌打ちをするジョージ。
 影はそんなジョージの動きよりも、遥かに素早い。
 まだこっちに向かってくるその影の腕を、いつの間にか彩香の前に出ていた風間がガッシリと掴んだ。
 その手には短刀のようなものが握られている。


「脇差し・・・!?」


 風間は影と組み合ったまま、ちらりとこっちを振り返る。
 その視線に、彩香ははっと我に返った。
 佐竹は。
 この店で狙われていたのは、佐竹だ。


「おい!!」


 振り返ると、佐竹が胸を押さえて倒れ込む寸前だった。
 その身体を支えようと、彩香は手を伸ばす。
 だがその時、ビシッと銃弾が佐竹の腹に当たった。


「う・・・・っ!」


 低く呻いて、佐竹はその場に倒れる。
 銃声は、この大音量にかき消されて聞こえない。
 だがジョージが動いた。
 おそらく、弾道を予測して狙撃手の居場所に向かったのだろう。
 彩香は必死でカウンターの中に飛び込むと、佐竹の身体を抱き起こす。


「大丈夫か、しっかりしろ!!」


 そう叫んだ時、佐竹の口からおびただしい血が吹き出て、彩香のTシャツを真っ赤に染めた。


「俺はもう・・・薬は、止めたんだ・・・」


 血を吐きながら、佐竹が言った。
 彩香は黙ったまま、佐竹を見つめている。


「過去を受け入れて・・・何が悪い・・・」
「分かった。他に言いたい事はねぇのか?」


 佐竹を抱えたまま、感情を押し殺して彩香は言った。
 この出血ではもうーー。
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