TRIGGER!2





 あっちからの帰り道、風間はいつにも増してテンションが低かった。
 原因はあの女だと言うことは分かりきっていたのだが、彩香は敢えてその理由を聞く気もなかった。
 コイツの過去になど興味はなかったし。
 そんな感じで、結局マンションに帰ってくるまで、一言も会話はなし。
 風間はそのまま黙って自分の部屋に閉じこもってしまった。
 彩香は取り敢えずシャワーを浴びる。
 こんな事なら、わざわざムリしてついて行くんじゃなかった。
 せっかく獲得した高級ウイスキーも一晩で飲み干してしまったし。
 徹夜までしてついて行けば、ワケの分からん連中に追い掛けられるハメになるし。
 帰りは帰りで、メッチャ雰囲気悪くて。


「・・・・・」


 彩香はシャワーを止めてタオルを身体に巻き付け、キッチンに移動した。
 このむしゃくしゃする気分も、ビールの1つも飲めばおさまる筈だ。
 そして、日差しを完全にシャットアウトした寝室で思い切りベッドに飛び込んでやる。
 自分の中では、そんなこの上ないタイミングで極上の眠りを貪る予定だったのだが。


「・・・マジかよ」


 冷蔵庫は、まるで新品でも買ってきたかのようにキレイに空っぽだった。
 がく然と、その場にうずくまる彩香。
 窓の外には、これでもかというほど日差しが照りつけていて、それに輪をかけるようにセミが大合唱している。
 繁華街の外れであるこのあたりにはそんなに木が生えている訳じゃないのに、奴らは嫌がらせのようにマンションの壁に張り付いている。
 ふと、彩香はあのクリニックの裏庭の光景を思い出した。
 都会のど真ん中に生い茂る、小さな森。
 そのまた奥にある豪邸。
 医者が金持ちという図式は頭の中にあったが、心療内科の個人医院でもあれほどまでに儲かるものなのだろうか。
 そして、あの赤いドレスの女。


「何なんだよあの女」


 うずくまったまま、彩香は呟く。
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