TRIGGER!2
☆  ☆  ☆




 目が覚めたのは午後4時過ぎだった。
 ソファに横になったまま、不思議な事にビールの缶だけは握り締めていた。
 テーブルの上に投げ出した携帯が鳴っていなければ、このまままだ浅い眠りを貪っていただろう。
 彩香はビールの缶をテーブルに置いて、携帯を持ち上げる。


「もしもし」


 通話ボタンを押して前髪をかきあげながら、彩香は起き上がった。


『寝てたか?』


 聞こえてきたのは、峯口の声だった。
 あぁ、と頷いて、彩香はタバコをくわえて。


『少し・・・ドライブにでも行かねぇか? 今マンションの下にいるんだよ』


 峯口にしては珍しく、静かな声音だった。
 彩香はソファから立ち上がると、ベランダに出て下を見る。
 黒塗りの高級車に寄りかかって携帯を耳に当てた峯口が、こっちを見上げて軽く手を上げていた。


「あぁ、分かった」


 いつもなら、速攻で断るのだが。
 多分、このタイミングが、最後のチャンスなんだろうと、彩香は思う。
 もしかしたら、峯口も同じことを思っていたのかも知れない。
 だから素直に、彩香はマンションを出て峯口の車に乗った。


「ひでぇ格好だな」


 サングラスをかけて、タバコくわえながら運転する峯口を見て、彩香は苦笑する。
 その格好は、スーツではあるがあちこちが砂と泥にまみれていて、いつも以上に着崩れしている。
 あぁこれか? と、峯口も笑って。


「昨日風間から連絡があった後、ちょいと解体工事してたんだよ。元々俺は解体業が専門でなぁ。そこから建築業に移行したんだが・・・いつの間にか、こうなっちまった」


 ふぅん、と相槌を打ちながら、彩香は窓の外に視線を送る。
 多分、解体工事というのは『ドリームコーポレーション』の事だろう。
 薬の製造元である建物を、峯口が放っておく訳がない。
 しかし、従業員の人手が何かと不足している今、峯口自らが動かざるを得なかった。
 そのまま会話もなく、車は少し走って海岸沿いの道に出た。
 もう西に傾きかけている太陽の光が海に乱反射して、彩香は目を細める。
 人工の光では決して造ることの出来ないこの光景は、何回見ても気持ちがよかった。
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