TRIGGER!2
「どこかにビールでも売ってねぇかな」
「そう言うと思ってな。ほれ」


 峯口は後部座席に手を伸ばすと、缶ビールを彩香に手渡す。


「・・・温い」
「文句言うな」


 チッ、と舌打ちをして、彩香はプルトップを開ける。
 車は、いつか真夜中に雛子と一緒に立ち寄った海岸に到着した。
 穏やかな潮風と海岸線の街路樹、その向こうには青い屋根に白い壁の喫茶店のような建物が見えた。
 このコントラスト、まるで一枚の絵画のようだ。


「綺麗だな。さすがの俺でも、心が洗われるような気持ちになる」


 車を降りて景色を眺めながら、峯口はタバコに火を点けた。


「何言ってんだ、ホントは汚い場所の方が心地いいんだろ?」


 彩香が嫌味を言うと、峯口はこっちを向いてニヤリと笑って。


「ま、その通りだよ。汚れた世界っつうのは、汚れたモノを隠してくれるからな。それでも一応人間である以上、こんな景色を見た時にゃウソでも綺麗って言わなきゃならねぇんだよ」
「ウソなら言わなきゃいい」


 ビールを一口飲んで、彩香は肩をすくめる。


「お前は・・・正直だからな」


 海を眺めながら。


「やっぱり俺の目に狂いはなかったな。見たことねぇんだよ、お前みたいな人間は」


 彩香はしばらく沈黙したあと、目を伏せた。


「運命だって、言ったんだってな」


 峯口が彩香を引き取ると決め、風間に反対された時。
 そう言っていたと、風間から聞いた。


「言っとくけどな、運命なんかじゃねぇんだよ。あたしがここに来たのは、全て仕組まれた事なんだ」
「ーー・・・目的は?」


 変わらずに海を見つめ、煙を吐き出しながら峯口は言った。
 彩香は、無意識に唾を飲み込む。
 そして、絞り出すように。


「破壊」


 その言葉をこの男に聞かせるのは、信じられない位に胸が痛かった。
 自分でもどうしてなのか分からない。
 だが峯口は、フッと笑顔を作る。


「・・・なぁ彩香、個人的に1つだけ、聞いてもいいか?」


 こっちに微笑みかける峯口の顔を見つめて、彩香は小さく頷いた。


「お前の中の空洞は、少しでも埋まったのか?」
「・・・・・・」
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