TRIGGER!2
「あの男に、美和は騙されたんです。そして水島先生、あなたも」
「どうでもいいわ」


 俯いて、水島は言った。


「何があったのかなんて・・・もう、忘れたもの・・・」


 もしかしたら、と、彩香は思う。
 水島は、健忘症などではないんじゃないのか。
 『ドリームコーポレーション』で水島を助けた時、彩香は頭痛の事を水島に打ち明けた。
 その時は聞き流されていたが、こっちに戻ってきてから水島は彩香の頭痛の為に薬をくれた。
 あの場所での会話を、忘れていなかったのだ。
 何もかもを隠すため、自分の研究に集中する為にわざと、忘れっぽい医者というキャラクターを演じていたのではないか?


「なぁ、あんたがあたしにくれた薬は・・・」


 彩香はそう聞いてみる。
 水島は屈託のない笑顔を、こっちに向けた。


「あぁ、あれはホントに頭痛薬よ。でももう何処も痛くないでしょ?」


 そんな水島の目を、彩香は真っ直ぐに見つめた。
 しばらく視線を絡ませて。
 彩香は、ふと、目をそらす。
 そして、風間の方に向き直った。


「分かった。田崎は殺されそうなこの女を放っておく訳がない、きっと何かのコンタクトを取ってくるはずだって言いてぇんだな、隼人?」
「その通りです。我々が水島先生を手放そうとしているのに、田崎が利用価値のある彼女を放っておく訳がない」


 そう言った途端、ジョージのパンチが風間の頬にヒットした。
 銃とロープを握っていた風間は受け身も取れず、勢い良く屋上に転がる。


「頭に血が昇りすぎだな、隼人。少しは千絵ちゃんの気持ちも考えやがれ」
「あたしは乗るよ、このゲームに」


 風間が思わず手放した水島を縛っているロープの端っこを拾い上げ、彩香は言った。


「まぁ、やり方は誉められたもんじゃねぇけどな。面白いじゃねぇか、これでもし田崎っつうハゲが出て来てくれりゃ御の字だしな。だけど隼人」


 彩香は、ゆっくりと起き上がる風間に手を貸した。


「あたしは真夜中までここで待ってなんていられねぇんだよ。あんたの蒔いたエサとやらであのハゲはこの近くまで来てる筈なんだろ? ならこっちから動いてヤツを探して仕留める。それで文句はねぇな?」
「ったく・・・」


 頭をポリポリとかきむしり、ジョージはため息をついた。


「俺はどっちの暴走止めりゃいいんだよ?」
「暴走してんのは隼人だろ!」
「彩香に付いてやれ、ジョージ」


 唇の端を手の甲で拭いながら、風間が言った。
 呼び捨てにされたことに驚いて、彩香は風間を見つめる。
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