TRIGGER!2
 佐久間心療内科クリニックには、明かりは一切点いていない。
 バイクを降りると、彩香とジョージは建物の裏手に回った。


「そう言えば、ここのドアの確認してなかったな」


 騒ぎに紛れて、結局二階の窓の確認はしていない。


「こんなときにも仕事を思い出すなんて、案外真面目だよなぁ、お前」
「案外は余計だろ」


 裏口には鍵が掛かっていた。
 が、ここは現実世界ではなく・・・何をしても誰も咎めない。
 彩香が鍵を壊そうと、銃を取り出した、その時だった。


「伏せろ!」


 いきなりジョージに頭を押さえ込まれた。
 同時に、たった今彩香が立っていた横の建物の壁に、ビシッと銃弾が食い込む。
 ジョージは間髪入れずに、裏庭の木々に向かって立て続けに銃を撃った。


「中に入れ、彩香!」


 その声に押されて彩香は裏口の鍵を自分の銃で撃ち抜き、ドアを蹴り開けて中に転がり込んだ。


「ジョージ!」


 ドアの影に身を隠し、ジョージの援護をしながら彩香は叫ぶ。
 こっちに来い、と言ったつもりなのだが。


「敵は田崎だけじゃねえんだろ?」


 ジョージは肩越しにこっちを振り返る。


「黒ずくめの連中も敵なんだ。俺はちょいとこいつら片付けるから、先にドアの確認してろ」


 それだけ言うと、ジョージは茂みの中に飛び込んで行った。
 ドアの確認なんてこの際、どうでもいいのだが。
 最初の一発で狙われたのは、彩香だ。
 それがわかって、ジョージはわざと彩香を建物に避難させ、自分だけで黒ずくめの連中を片付けようとしている。


「ったく・・・デカい割には細かいとこ、気が付くんだよな・・・!」


 彩香はそうごちて、ジョージの後を追おうとしたのだが。


「・・・・・・」


 クリニックの中を見渡す。
 一階は診察スペースになっているらしく、非常口を示す緑の看板だけが光っていた。
 裏口を入って右手には、階段がある。
 階段の上は、まるで切り取ったように暗闇が広がっていた。
 だが、確かに人の気配を感じる。
 二階は多分、入院患者の為のスペースなのだろう。
 彩香は両手で銃を構えると、深く一息吐いてから、ゆっくりと階段を登り始めた。
 だんだんと慣れていく暗闇にうっすらと浮かび上がるのは、二階にあるナースステーションらしき空間と、その隣にある休憩スペースだ。
 小さなテレビとベンチ型のソファが幾つか、並べられている。
 位置からして、この休憩スペースの横にある窓が、確認しなくてはならない“ドア”だ。
< 165 / 206 >

この作品をシェア

pagetop