TRIGGER!2
「安心しなさい、彩香さん。何もあなたの命を奪おうとなどしていない。ただ1つ・・・言うことを聞いてくれればね」
「この流れから行くとさぁ、それってあたしの意志は全く関係ないって感じだよな」
「そうですね」


 彩香の言葉をあっさりと肯定する佐久間。


「“あの男”から伝言です。『あなたの仕事は終わった』と」


 彩香は、ピクリと身体を震わせた。
 震える手で、それでも佐久間に狙いを定めたまま、彩香の目つきが鋭くなる。
 だが佐久間は淡々と続けた。


「この黒服の人達を動かしているのは、私じゃありません。一介の町医者ごときの私が、こんな連中など動かせたりしませんよ。今、ここにいる2人は、私の指示には全く従わないでしょうね」
「じゃあ、こいつらの目的は何だよ?」
「これを・・・彩香さんに、飲んで欲しいんですよ」


 佐久間は、手のひらをこっちに伸ばした。
 彩香の額を、冷たい汗が流れ落ちる。
 左肩から滴る血も、何故か冷たく感じた。
 佐久間が広げた手にひらには、小さな錠剤が乗っていた。


「拒否・・・したら?」


 震える声で、彩香は言う。
 佐久間は自嘲的な笑みを浮かべた。
 黒ずくめの1人が、佐久間のこめかみに銃を突き付ける。


「彩香さん、あなたの命は保障されています。ですが、この薬をあなたが飲まなければ・・・私も、彼女も、殺されます」


 彩香は奥歯を噛み締めた。
 黒ずくめは2人。
 佐久間と違って、狙いを付けた的を外すとは思えない。
 少女は両手を縛られているから、自ら動く事は出来ない。
 せめて1人だけでも、戦力を削ぐ事が出来たらーー。
 彩香は息を止め、引き金に掛けた指に微かに力を入れた。
 だが黒ずくめの1人が、すかさず発砲する。
 少女が縛り付けられている窓が、粉々に砕け散った。


「彩香さん・・・」


 悲痛な表情をこっちに向けて、佐久間は言う。


「私はいい。ですが、彼女だけは・・・助けてやってくれ・・・頼む!」


 自分に銃が向けられている事も忘れているのか、佐久間はこっちに向かって深々と頭を下げた。
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