TRIGGER!2
「待て。見知った仲だ、挨拶くらいしたらどうだ?」
「うるせぇな、どいつもこいつも!」


 たまらずに、彩香は怒鳴る。
 雛子は別段気にする様子もなく、彩香を見つめて。


「お前がちゃんと挨拶しないから、どいつもこいつもお前をたしなめるんだ。それくらい分からないのか?」
「やっぱ昼間に出歩くもんじゃねぇな」


 前髪をかきあげて、彩香はボヤく。


「私も今日は早い出勤なのだ。たまたま予約が入っていてな」
「あーそうですか、商売繁盛で何より」


 精一杯の嫌味を込めて言うのだが、無論、雛子にはそれが通じる筈もない。


「うむ。相手は金持ちでな、通常は夜からの営業なのだが・・・断り切れなかった」


 雛子の占いは、外れない。
 マンションの二階にある店舗で占いの館を開いているのだが、その鑑定料は一般的なものよりもかなり法外なものだ。
 それを承知で、しかも営業時間外にわざわざ店を開けさせてでも鑑定を依頼するなど、とんでもない金持ちか、とんでもないバカかのどっちかだ。
 だが、彩香には全く興味はない。
 今ある興味の対象と言えば、手に持ったコンビニの袋の中のビールがぬるくなってしまわないか、それだけだ。
 だから、へぇ、とだけ相槌を打って、早々にこの場を立ち去ろうとしたのだが。


「待て」


 再び、雛子に呼び止められた。


「何だよ」


 相当イライラと、彩香は振り返る。
 うむ、と雛子は少しだけ、ヴェールの隙間からかろうじて見える目を伏せた。
 だがそれも一瞬で、すぐに真っ直ぐに彩香を見つめる。


「やはり、お前に伝えておくとしよう」
「何をだよ?」


 少し身構えて、彩香は訝しげに雛子を見返す。


「過去の亡霊に捕らわれるな。それを生み出しているのは自分自身だ。もし、負けたら」
「・・・どうなるんだよ?」
「自らを自分で殺す事になるだろう」


 まだ、どこからともなく、セミが鳴く声が聞こえ続けている。
 彩香は、眉間にシワを寄せた。


「何だよ。こっちから頼んでねぇんだから、金は払わねぇぞ」
「大丈夫だ。今日の客から満足のいく時間外手当てを貰っている」


 やっぱぼったくりじゃねぇか、と、彩香は雛子をひと睨みすると、早足で歩き出す。
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