TRIGGER!2
 衣装部屋から水島が姿を現し、田崎の方に向かってつかつかと歩いていく。


「千絵ちゃん・・・?」


 ジョージがそう呟き、ステージ脇を見ると、桜子と友香も心配そうにこっちを見ている。


「興味あるわね、その薬」


 水島は彩香たちには目もくれず、田崎の手から薬の入った小さな袋を取り上げた。


「千絵・・・!」


 田崎はそんな水島の腰にすがりつく。


「来てくれたんだな・・・! また俺と一緒に、誰も居ない場所に行こう」


 水島はそんな田崎の頬を、優しい眼差しで見つめながらゆっくりと撫でた。
 まるで子供が母親に保護を求めるように抱き付く田崎。


「何処までもえげつない男だな」


 嫌悪感丸出しにして、風間は吐き捨てる。


「これ、あなたが開発したの?」


 袋を目の前に掲げてまじまじとそれを見つめながら、水島が言った。
 そうだよ、と田崎は何度も頷く。


「薬が一番売れるのは、対になっているものなんだ。効果を打ち消すものがあってこそ、売り手の安全も保障される」
「ふぅん・・・」


 水島は赤い縁の眼鏡を直す。


「やっと俺もここまで出来るようになったんだ。だから千絵、また」


 一緒に、とでも言おうとしたのだろうが。
 水島は、薬が入った袋を床に落とす。


「・・・嘘つきね」
「千絵?」


 まるで予想だにしていなかった水島の行動。
 田崎はキョトンとした目でそんな水島を見上げる。


「例えこれがあたしの薬の効果を中和するものであっても、あなたにそれが作れる訳ないじゃない。お金で雇った三流の研究者たちに作らせたんでしょ? それにこの薬、精度が悪いってのが見ただけで分かるわ」


 クスクス笑いながら、水島は言う。


「あたし、嘘つきだけは許せないのよ」
「あ、あぁ、そうだな。確かに俺が開発したんじゃなかった。俺が雇った奴らが一生懸命ーー」
「ついでにもう一つ、聞いていい?」


 にっこりと田崎に笑いかけながら、水島は言う。
 その口調は至って軽いものだった。


「三年前のあの時・・・あなたは、あの子とあたし、どっちを選ぶつもりだったの?」


 “スターダスト”のフロアは、ダンスフロアも兼ねているだけあってこの繁華街でもかなりの面積がある。
 だが、黒ずくめ4人と彩香たち3人が持っている銃は、そんなフロアを隅から隅まで補って余りある。
 どちらも素人ではないのだ、無駄がないように立ち位置も計算されている。
 それなのに、今の水島にはそんな事実は全く関係がないらしい。
 無数の銃口にも構わずに、田崎に質問をぶつけて。
 たった一言の答えを待っている。
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