TRIGGER!2
 水島は一瞬だけ、目を閉じた。
 彩香は流れる血も全く気にせずに、ゆっくりとジョージと風間の間を抜けてフロアの入り口に向かって歩いていく。
 多分、彩香と呼び止めても、その歩みは止めないのだろう。
 ジョージと風間は、少しだけ視線を絡めて。
 同時に動く。


「彩香は行かせねぇ!」


 ジョージが黒スーツに向かって発砲する。
 同時に風間はさっき弾かれた銃に飛び付き、ジョージよりも一瞬遅れて黒スーツを狙って。
 短い、銃撃戦だった。





☆  ☆  ☆




「来なさい、“トリガー”」


 確かに、そう呼ばれた。
 “トリガー”というのは自分の名前で。
 アイツが呼んでいる。
 だから、行かなければならない。
 それも、合図だ。
 目の前で床に座り込んですっかり怯えている、この男。
 アイツはこの男を許さない。
 だから、自分が邪魔なのだ。
 この立ち位置からすると、一番適しているのは入り口付近の狙撃手だ。
 その狙撃手と田崎という男の直線上に自分が立っているから、それが邪魔でアイツは「来なさい」と呼んだ。
 田崎という男には、何の感情も湧かない。
 それに、訓練を積んだ狙撃手が、こんな短距離で目標を外す訳はない。
 ーーだが。
 無意識に、身体がほんの少し、傾いた。
 もしかして自分は、死のうとしてたのか?
 それは、許されてはいない行為だ。
 アイツからの命令を無視するなど、考えられない。
 なのに何故。


(・・・苦しい・・・)


 ここにいるだけで。
 たまらなく、苦しい。
 ビシッと耳元で空気を切り裂く音がして、頬に裂傷が走った。
 やっぱり、自分は命令にはどうしても逆らえないらしい。
 もっと身体を傾ければ、この弾丸は田崎ではなく自分の額を撃ち抜いていた筈なのに。
 それが、出来ないのだ。
 だから歩く。
 この世で一番大嫌いなアイツの元へ。
 この世で一番大嫌いな、自分の居場所へ。
 でも・・・。
 どうして、こんなに、苦しいんだろう・・・!





「彩香は行かせねぇ!」
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