TRIGGER!2
 そんな声が聞こえ、フロアに銃声が鳴り響く。
 彩香は目を見開いた。


「彩香・・・!」


 自分の真横で、床に倒れたジョージがこっちを見上げている。


「彩香まで・・・俺の前から消える気じゃない・・・ですよね・・・」


 風間も脇腹を押さえながら膝を突き、こっちを見ている。
 二人の身体から流れる赤い血を見た時、全身を貫くように恐怖感が湧き上がった。


(彩香)


 何度も、そう呼ぶ声が聞こえていた。


(彩香!)


 聞こえないフリをしていた。
 それを認めたら、苦しみが増すだけだから。


「どうした?」


 黒スーツの男が言った。
 床に倒れているジョージと風間には目もくれずに。


「さぁ、来なさい」


 そう言って、男は彩香に手をさしのべる。
 最初に鉄格子のドアの前で、そうしたように。


『お前のような人間は、どこに行っても同じだ』


 ーー・・・いや、違う。
 この苦しみは、大事なものを失う怖さだ。
 手の中に、胸の中に確かにあった、大きくて暖かいもの。
 それを失って、また冷たく凍り付いた世界に戻るなんて、耐えられない。

 

「あたしは」


 彩香の腕が動く。
 真っ直ぐに伸ばされたその腕には、銃が握られていて。
 その銃口は、黒スーツの男に向けられていた。
 全身全霊を込めて、彩香は男を睨み付け。


「あたしは・・・ここにいる!」


 男は、ほんの少しだけ目を見開き、そして一歩、彩香に近付いて自ら胸の前に彩香の銃口を押し当てた。


「お前に、引き金を引く勇気があるのか?」


 低い声でそう言って。
 彩香は息を荒くしながら、震える手を必死で持ち上げている。
 そんな彩香を見て、男はフッと笑った。


「まぁいい。この街と、ドアを抜けたあちらの世界・・・そして薬。大分理解できたよ。その利用価値と、この街を仕切るあなた方の処遇はこれから吟味して決めなければならないからね」


 誰にともなくそう言い放ち、男はフロアに背を向けて歩き出す。
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