TRIGGER!2
『よぉ~彩香ちゃん。元気でやってるか?』


 聞こえて来たのは、一応彩香の雇い主で保護者だと自ら豪語している峯口陽介だった。
 肩書きで言うなら、従業員を二千人抱える大企業『峯口建設』の社長、そしてこの繁華街に高級クラブを始め、スナック、居酒屋など複数の店舗のオーナーである。
 ついでに言えばこのマンションも、峯口が抱えているものだ。
 彩香の保護者だという部分だけは、削除してほしい。


「用事は何だ? 仕事かよ」


 相手が雇い主で、こっちが雇われる身である限り、間違っても馴れ合いになんてなりたくはない。
 特に相手が、いかにも裏家業にどっぷりと浸かっている怪しいオヤジの場合は。


『いやぁ、ちょっと久しぶりだから声が聞きたくなってさ。出来る事ならデートにも誘いたいんだけどねー』
「体調悪いんだよ。テメェの声を聞いた途端にな」
『あらまぁ、そりゃ困ったねぇ。オジサン部屋に看病に行ってあげようか?』
「用事はないんだな?」


 携帯を耳から遠ざけると、向こう側から慌てたような大声が聞こえる。


『わー待て切るな! これ切ったらお前、二度と電話に出ないだろ!!』
「分かってんならさっさと用件言えよ」


 もーツレナイんだから、と、峯口はらしくもない拗ねた声を出す。
 それから少し、声を潜め。


『なぁ、風間ちゃん知らねぇか?』
「・・・は?」
『今日の仕事の報告がねぇんだよ。明るいうちに済ませておけって言っておいたんだけどなぁ』


 報告がない?
 風間にしてみれば、珍しい事だ。
 いや、有り得ない。
 あの、真面目の塊で何よりも峯口を尊敬している風間が。
 彩香は薄暗くなってきたベランダに移動して、仕切り板から風間の部屋を覗く。
 だが気配はないし、電気も点いていない。
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