TRIGGER!2
『彩香』


 少しドスのきいた声音で、峯口は言った。


「何だよ」
『俺はお前を信頼している。じゃなきゃ雇ったりしねぇ。俺はお前が何をしようとも否定はしねぇし、お前が何をしても、後始末はきっちりとしてやれる自信がある』
「・・・・・」
『それにな、これは俺の憶測でしかねぇんだが』


 ふうっ、と電話の向こうでタバコの煙を吐き出す息遣いが聞こえる。


『風間もジョージも、俺と同じ気持ちだ』
「だから、それが何だよ?」
『お前も信用しろ。心の底から、な』


 彩香は、息を吐いた。
 今気付いたが、無意識に全身が緊張していたらしい。
 峯口の言葉を聞いて息を吐いたら、やたらと身体が楽になった。


『だからな』


 彩香は、携帯を持ち直す。


『これからデートってことで、決まりなっ!』


 何にしろ。
 結局こうなるのは、仕方のない事なのかも知れない。
 こっちはこっちで、行き詰まっていたところだし。
 もうそろそろ誰かに吐き出さないと、頭のてっぺんから火山が噴火してしまいそうだったし。
 彩香は通話を終わらせると、そのまま携帯をポケットに突っ込んで、タバコをひっつかむとマンションを後にした。



☆  ☆  ☆





 てっきり、峯口の所有する店でこの繁華街では一番の高級クラブ『AYA』に呼び出されるのかと思ったが。
 峯口がデートの場所と指定してきた店は、街の一番端っこにある、小さな居酒屋だった。
 薄暗くなり始めた空に、ポツリ、ポツリとネオンが瞬き始める入り組んだ道を、彩香はゆっくりと歩いている。
 そうでもしないと、何から話していいのか分からなくなりそうだった。


「ここか」


 大人1人がやっと通れるような細い路地の一番奥。
 小さな看板の灯りには、白地に黒い毛筆の文字で『結(ゆい)』とだけ書かれていた。
 店構えはふた昔前を思わせる純和風で、築年数が古いのか、引き戸も壁も、あちこちに黒いくすみが出来ている。
 本当に営業しているかどうかさえ怪しかったが、確かに峰口はこの店で待つように言っていた。
 ガラガラと音を立てて、彩香は引き戸を開ける。
 純和風の店の中もこぢんまりしていて、カウンターに10席程の小さなスペースだった。
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