TRIGGER!2
 カウンターの中には和服に割烹着を着た女性が立っていて、こっちに笑顔を向けている。
 くっきり二重の目が印象的なその女性は、落ち着いてはいるがまだ若い。
 彩香よりは少し年上に見えたが。
 店にはBGMも流れてはいなく、テレビもない。


「あの、さ。待ち合わせなんだ。座っていいかな?」


 峰口はまだ来ていないらしく、彩香は女将に言った。
 女将はにっこりと頷いて、カウンターを指し示した。
 取り敢えずカウンターの真ん中に座るが、何せ店の中が静かすぎて落ち着かない。
 いつもマンションの下の、やたらとやかましい店に入り浸っているからか。
 それに、この女将は愛想はいいのだが、なにも話し掛けて来ない。
 微妙な沈黙に耐えきれず、彩香はウイスキーを頼む。
 女将はにこにこしたまま手早くウイスキーを用意して、彩香の目の前に置いた。
 変わらずに沈黙が流れる中、彩香はちびちびとウイスキーを喉に流し込む。


「ねぇ、ツマミも適当に出してくれる?」


 彩香が言うと、女将は頷いた。
 返事くらいしねぇのか、と、彩香はカウンターの中で手を動かす女将を見つめて。
 と、その時、店の戸が開いた。


「お待たせ~!」


 この静かな雰囲気にそぐわないテンションで入ってきたのは、峯口だった。


「遅ェ」
「おっ、先にやってたのか彩香。あ、俺にも酒ね」


 勝手知ったる様子でカウンターに座り、峯口は言った。


「なかなかいい店だろ?」
「・・・まぁな」


 もしも自分が峰口ばりのオッサンなら、こういう落ち着いた店もいいだろうとは思うが。


「何だよその無愛想な顔は。お前も少しは友ちゃんを見習ったらどうだ?」


 どうやら友ちゃんと言うのは、この女将の名前らしい。
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