TRIGGER!2
「無愛想でもちゃんと喋るだろ、あたしは」
「あぁ、言い忘れてたんだけどな、友ちゃんは喋れねぇんだよ。失声症でな」


 峯口にそう言われて、彩香は女将を見た。
 女将は少し困ったように笑っている。


「彼女は斉藤友香さん。ここの料理は絶品なんだぜ? 遠慮なく食いたいの頼めよ」


 メニューを広げてニコニコしながら峯口は言うが、彩香はその前の台詞が気になった。


「失声症?」
「あぁ。ストレスや心理的なものが原因で、一時的に声が出なくなる病気らしい」


 どおりで、ここに来てから友香は一言も喋らない筈だ。
 彩香は納得して、グラスを口に運ぶ。
 峯口が言うように、出て来た料理はどれも旨かった。
 比べてはいけないが、風間の作る質素なツマミとは段違いだ。
 それに。


「じゃあ、ここで話した事は誰にも漏れる心配はねぇって事だな」


 彩香は言った。
 峯口は苦笑して。


「まぁな。病気じゃなくても、友ちゃんは聞いたことを言いふらすような子じゃねぇけどな」
「じゃ、本題ね」


 彩香は切り出す。
 早く現状を峯口に報告して、この状況の打開策を聞きたい。
 そして、今朝からの一連の出来事を、彩香は出来るだけ細かく峯口に話した。


「なるほどな」


 灰皿にタバコの吸い殻が七本溜まったところで、話を聞き終えた峯口は呟いた。


「そうか、寝てねぇからそんなブサイクな顔してたんだな」
「突っ込むとこ、そこじゃねぇだろ!」


 意を決して全部包み隠さずに話したと言うのに、彩香が怒鳴ると、峯口は笑って。


「怒鳴るんじゃねぇよ。友ちゃんに笑われてるだろ」
「テメェ・・・」


 毎度の事ながら、自分はどうしてこんなヤツに雇われているんだろうと、彩香は思う。
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