TRIGGER!2
「何やってんだよ、早く帰ってこい」


 天井に向かって煙を吐きながら、彩香は呟いた。
 全く、どいつもこいつも。
 どちらかというと、待つのは得意ではない。
 今までは、誰にも遠慮せずに自分の好きなように動いていたのだが。


(・・・今まで?)


 確かに、今までと今とでは状況が違う。
 だが何故か、居心地の悪さは感じなかった。


『彼女はこちらで引き取ります』


 鉄格子の向こうに現れたのは、長身で短髪、目つきが鋭い、見たことのない男。
 看守と交わす、よく聞き取れない会話。


『引き取って頂いて助かります、だってあの子・・・』
『・・・暴れるんです』
『さすがに母親を・・・しただけありますね』
『彼女に更正の余地があるとは・・・』


 途切れ途切れにそんな声が聞こえてすぐに、看守は鉄格子の鍵を開ける。
 重々しく開いたドアの向こうで、男がこちらに向かって手を伸ばす。


『来なさい』


 どうせこの世界は。
 表情のない顔で、天井を仰いだ。
 どうせ、この世界は。


『さぁ』


 どこもかしこも、居心地が悪い。
 何処に行っても、それは変わらない。
 ここじゃなくても、何処でも同じだ。
 そう思い、ゆっくりと、立ち上がる。 


『気をつけて下さい。暴れると危険です』


 看守が言った。
 どいつもこいつも、同じ顔をしやがって。
 心持ち遠巻きにこっちを見つめている看守達に、男は振り返り。


『大丈夫ですよ。僕の行動は治療可能な範囲であらゆる事が許されていますから』


 ・・・笑っている。
 こっちに背中を向けているから表情は見えないが、その口調から、男が笑っていると確信した。
 それも、至極楽しそうに。
 言葉とは裏腹のその表情に同じように異様さを感じたのか、看守達は凍りついたように動かなくなった。
 それを一瞥して、狭い部屋から出る。
 母親と同じ位に背は伸びた筈なのに、男はこっちよりも頭1つデカい。


『さぁ、一緒に来い』


 ーー何処へ?
 そんな質問が、口をついた。
 するとまた、男は笑う。


『お前みたいな人間には夢のような天国か・・・それとも地獄か。どっちにしろ、お前の境遇は何処でも一緒だ』


 そこで初めて、看守達が凍りついた訳が分かった。
 この男の笑顔は、今までに見たことがないくらい、冷徹だった。
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