TRIGGER!2
☆  ☆  ☆



 ガチャン、と音がして、彩香は顔を上げた。
 寝不足のせいか、いつの間にかウトウトしていたらしい。
 目が覚めたのは、このマンションの廊下の電気がいきなり消えたからだ。


「停電?」


 四階のエレベーターホールの横は非常階段に通じるドアになっていて、そのドアにはめ込まれたガラスから外が見える。
 そこから外を覗くが、マンションの周りの建物も街灯も、普通に点いている。
 どうやら停電しているのは、ここだけのようだ。


「何なんだよ」


 そうごちた時、非常階段の下から足音が聞こえる。
 それも複数の人間の足音だ。
 反射的にドアの影に身を隠し、彩香は息を潜めた。
 足音が上の階に遠のくのを待って、彩香は非常階段に出る。
 見上げると、連中は六階のエレベーターホールに通じるドアを壊して、中に入っていった。


「・・・へぇ」


 腰に手を当てて、彩香は小さく呟く。
 こんな夜中に、あの忘れっぽい医者に用事がある奴らなんているのか。
 それも、わざわざ停電を起こして、わざわざ不法侵入まがいの事をしてまで。
 少し経つと、連中は非常階段を降りて来た。
 彩香は、タバコに火を点ける。


「それ、連れて行くのは構わねぇけどな、色々と面倒な女だぜ? 後で痛い目見ても知らねぇからな」


 いきなり声を掛けてきた彩香に、連中はかなり驚いたようだった。
 人数は3人。
 このクソ暑いのに、真っ黒なニット帽を目深に被っている。
 一列に並んだ真ん中の男の肩には、暗闇でも映える白衣を着た小柄な女が担がれていた。
 間違いなく六階に住んでいる医者、水島千絵だ。
 この事態にピクリとも動かないところを見ると、どうやら意識を失っているらしい。
 男達は目配せで合図をすると、一番前にいた1人が一気に階段を飛び降り、彩香に襲いかかる。


「チッ」


 非常階段の踊り場は狭い。
 1人目をかわしたが、間髪入れずに三人目が彩香に飛びかかって来て、その隙に水島を抱えた男が階段を駆け降りて行った。
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