TRIGGER!2
 2人を一度に相手にするのはいいが、足場が悪く、思うように動けない。
 それに、このマンションだけを停電にする行動といい、水島をさらってくる手際といい、拳を繰り出すこの2人の動きといい。
 相手はそれなりの技術と訓練を積んだ連中だ。


「だぁから!」


 手の甲で相手の蹴りを弾きながら、彩香はボヤく。
 記憶を無くすとか言う薄気味悪い薬を開発する、あのワケの分からない医者が居なくなったところで、彩香には何の問題もないのだが。
 ふとそんな事を思い、一瞬だけ、気が緩んだ。
 その隙に、男のパンチが彩香の顔にヒットした。


「!!」


 重いパンチは彩香の身体ごと弾き飛ばし、非常階段の手摺りに強かに腹をぶつけてしまう。


「へぇ・・・」


 彩香のこめかみが、ピクリと動いた。
 そのままの体勢から、全体重を乗せた後方回し蹴りを繰り出して。
 男の1人が、転がるように階段を落ちて行った。


「誰に向かって一発くれてんだよ」


 唇の端を手の甲で拭いながら、彩香は落ちた男を見下ろした。
 残りの1人がまた、こっちに向かって来る。
 だが、こうしている間にも水島を連れた男は、道路に停めてある車に乗り込もうとしていた。
 別に助けようとしている訳ではないのだが。
 自分に一発くれたこいつらの思い通りになるのだけは、許せなかった。
 だが、間に合わない。
 その時。


「彩香ぁ!」


 下からだみ声が聞こえた。
 確認しなくても分かる、“AGORA”のイチゴだ。
 間髪入れずに、彩香は下に向かって叫ぶ。


「止めろ!!」
「任せてっ!!」


 いくらフリフリレースのワンピースを着ていても、イチゴはがっちり体型の男だ。
 それに、あの連中は3人セットだ、ここからは見えないが、近くにキウイとグレープも居るはず。
 相手がいくら手練れでも、足止めくらいは何とかなる。
 これで、少しは余裕が出来た。


「諦めろ。どうせ誰かに雇われたんだろ?」


 ひっきりなしに仕掛けて来る攻撃を避けながら、彩香は言った。
 だがその時。
 パンパン、と、何かが弾けるような音がした。
 続けて、キウイの悲鳴が。
 気を取られたその瞬間、腹に強烈な蹴りを食らう。


「・・・っ!!」


 息が止まり、身体をくの字に折り曲げる彩香。
 その隙に、男が階段を駆け降りた。


「ちっ・・・くしょ」


 腹を押さえて起き上がる。
< 39 / 206 >

この作品をシェア

pagetop