TRIGGER!2
「見かけない顔だが・・・ま、連れて行け。あ、一応先に病院か。お嬢ちゃんがやっつけたんだろ?」
「何だよ、そのあたしが悪いみたいな言い草は」
「お前さんは加減を知らないからなぁ。肋骨が折れているかも知れんし、未だに気絶してるって事は打ち所が悪かったのかも知れんしな」
「れっきとした正当防衛だよ。相手は3人、それもそこらのチンピラなんかじゃねぇ」
「ま、この連中が何者か調べるのが警察の仕事だがな、俺達の仕事が楽になるように、ちょいと話を聞かせて貰いたいんだが」


 会話を交わしている間にもパトカーは増え、マンションの周りに規制線が張り巡らされている。
 その外側には繁華街で飲んでいた野次馬連中が集まり、もう真夜中をとっくに過ぎていると言うのに、辺りは騒然としていた。


「ホントにこの街の連中は、いつ寝てるんだろうなぁ」


 鑑識の邪魔にならないように彩香を引っ張って端っこに移動しながら、高田はタバコに火を点けた。


「ヘラヘラ笑ってるんじゃねぇよ。人1人撃たれてるんだし、1人は誘拐されてんだ」
「だよなぁ。久々に大事件だな」


 優雅に煙を吐き出しながら、高田は笑う。


「曲がりなりにもこの街で、このマンションに手ェ出すなんざ・・・正気の沙汰じゃねぇもんなぁ。相手はきっと、よそ者だな」


 高田の言うことも納得出来る。
 事実上この繁華街を取り仕切る峯口の所有するマンションの目の前で発砲事件があったのだ。
 この街に巣くう数多くの裏の組織には、そんな無謀な所行をやってのける連中など、居ない筈だ。


「んで、こんなに大騒ぎになってるのに、お前さんとこの親分はどうした?」


 言われて見れば、峯口が姿を現さないのはおかしい。


「知らねぇよ」
「じゃあ、優秀な秘書と道楽息子は?」


 秘書は風間で、道楽息子と言うのはジョージの事だ。


「あたしはあいつ等の保護者じゃねえんだ、いちいち行動を把握してるかよ」
「誰も居ないんだな?」


 一瞬だけ、高田の目つきが鋭くなったような気がした。
 そうだ。
 今。


“誰も居ない”


 こんな状況が、今まであっただろうか。
 風間やジョージだけではなく、峯口や桜子までもが居ない。
 イチゴとキウイとグレープも。
 水島千絵も。
 これだけの騒ぎの中、居ない連中が多すぎる。


『四階のヤツを探して、ドアの確認に行け』


 唯一、彩香に出されている指示は、これだけだ。
 彩香は、ジーンズの後ろポケットに入れたままのメモ用紙を取り出した。
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