TRIGGER!2
何処からかそんな声が聞こえたような気がして、彩香ははっとして後ろを歩いている女を振り返った。
今は身長も彩香と同じくらいで、肩くらいの髪の毛を2つに分けて耳元で縛っているが、これは本来の姿ではない。
それに、この女の声を、彩香は一度も聞いたことがない。
当然、たった今、こいつが喋った訳でもない。
彩香は軽く頭を振った。
胸クソ悪い記憶なんて、敢えて思い出す事もない。
生きて行く為にいつの間にか、そんな技を修得していた。
だから、どんなに夢見が悪くても。
起きている間は、彩香は彩香で居られる。
「早く来いよ」
三歩離れてついて来る女にそう声をかけると、女は小走りに彩香に追い付いた。
2人並んで、深夜の繁華街を歩くーー。
☆ ☆ ☆
最初に到着したバー“ムスク”は、この繁華街の中心部にある三階建てのビルの最上階にある。
アーリーアメリカン調の、少しレトロな雰囲気を醸し出す、落ち着いた店だ。
道路に面した側は全面ガラス張りになっていて、ここからでも店の中が見えた。
「閉店してるみたいだな」
人影は見えるが、どうやら掃除をしているらしい。
どうやって店の中に入るかーー。
彩香が店を見上げながら考えていると、不意に女が右手を引っ張って歩き出した。
「え?」
そんな彩香に構わずに、女は彩香を連れたまま階段を登り“ムスク”と書かれた木彫のドアを開ける。
「あぁごめんなさい、今日はもう閉店なんですよ・・・」
掃除をしていたバーテンダーは、そう言いながら顔を上げ、その途端、持っていたモップを落とした。
「小百合ちゃん!」
「・・・え?」
誰の事かと面食らっていると、バーテンダーは彩香の隣に立っている女に駆け寄り、その手を取った。
「そろそろ来てくれないかなって思ってたんだよ、小百合ちゃん!」
どうやら小百合ちゃんと言うのは、この女の事らしい。
あっけに取られてその様子を見つめていると、バーテンダーはカウンターに上げてある椅子を下ろして、こっちに勧めてくれる。
「久しぶりだね、一杯飲んで行ってくれるんでしょ?」
「でも、閉店してるんじゃ・・・?」
「構いませんよ。お友達もご一緒にどうぞどうぞ!」
やたらと嬉しそうに、バーテンダーは彩香と女をカウンターの椅子に座らせた。
そして、自分はカウンターに入り、グラスを用意する。
「小百合ちゃんはいつものロングアイランド・アイスティーでいいよね? お友達は?」
「じゃ、マティーニ」
彩香は遠慮なくカクテルを頼み、隣に座っている女を見つめた。
ニコニコしながら座っている女。
いや小百合ちゃん。
「お前、小百合っていう名前なのかよ?」
小声で聞くが、女は答えない。
今は身長も彩香と同じくらいで、肩くらいの髪の毛を2つに分けて耳元で縛っているが、これは本来の姿ではない。
それに、この女の声を、彩香は一度も聞いたことがない。
当然、たった今、こいつが喋った訳でもない。
彩香は軽く頭を振った。
胸クソ悪い記憶なんて、敢えて思い出す事もない。
生きて行く為にいつの間にか、そんな技を修得していた。
だから、どんなに夢見が悪くても。
起きている間は、彩香は彩香で居られる。
「早く来いよ」
三歩離れてついて来る女にそう声をかけると、女は小走りに彩香に追い付いた。
2人並んで、深夜の繁華街を歩くーー。
☆ ☆ ☆
最初に到着したバー“ムスク”は、この繁華街の中心部にある三階建てのビルの最上階にある。
アーリーアメリカン調の、少しレトロな雰囲気を醸し出す、落ち着いた店だ。
道路に面した側は全面ガラス張りになっていて、ここからでも店の中が見えた。
「閉店してるみたいだな」
人影は見えるが、どうやら掃除をしているらしい。
どうやって店の中に入るかーー。
彩香が店を見上げながら考えていると、不意に女が右手を引っ張って歩き出した。
「え?」
そんな彩香に構わずに、女は彩香を連れたまま階段を登り“ムスク”と書かれた木彫のドアを開ける。
「あぁごめんなさい、今日はもう閉店なんですよ・・・」
掃除をしていたバーテンダーは、そう言いながら顔を上げ、その途端、持っていたモップを落とした。
「小百合ちゃん!」
「・・・え?」
誰の事かと面食らっていると、バーテンダーは彩香の隣に立っている女に駆け寄り、その手を取った。
「そろそろ来てくれないかなって思ってたんだよ、小百合ちゃん!」
どうやら小百合ちゃんと言うのは、この女の事らしい。
あっけに取られてその様子を見つめていると、バーテンダーはカウンターに上げてある椅子を下ろして、こっちに勧めてくれる。
「久しぶりだね、一杯飲んで行ってくれるんでしょ?」
「でも、閉店してるんじゃ・・・?」
「構いませんよ。お友達もご一緒にどうぞどうぞ!」
やたらと嬉しそうに、バーテンダーは彩香と女をカウンターの椅子に座らせた。
そして、自分はカウンターに入り、グラスを用意する。
「小百合ちゃんはいつものロングアイランド・アイスティーでいいよね? お友達は?」
「じゃ、マティーニ」
彩香は遠慮なくカクテルを頼み、隣に座っている女を見つめた。
ニコニコしながら座っている女。
いや小百合ちゃん。
「お前、小百合っていう名前なのかよ?」
小声で聞くが、女は答えない。