TRIGGER!2
 喋らないのも結構だが、せめて意思表示くらいはしてくれと文句を言おうとしたら、目の前にカクテルが差し出された。


「どうぞ」
「悪いな、いきなり来ちゃってさ」


 いいんですよ、と、バーテンダーはにこやかに答える。
 何がなんだか分からないが、彩香は取り敢えずこの場を取り繕う為に、必死で話題を探す。


「でも珍しいよな、ロングアイランド・アイスティーって」
「えぇ、紅茶もそのリキュールも使わないで、紅茶の味わいを出したカクテルなんですよ。魔法のカクテルって言われています」
「へぇ・・・」
「小百合ちゃんも好きだったんですよ、このカクテル」
「え?」


 今、微妙な言い回しをしなかったか?
 本人が目の前にいるのに、過去形とか。
 それを聞こうとしたら、女が彩香のTシャツの裾を引っ張って、道路側に面した店のガラスの一角を指差した。
 他のガラスははめ込んであって開くようにはなっていなかったが、空気の入れ換えの為なのか、端っこのガラスだけは開閉式になっている。
 バーテンダーの勢いに負けて、本来の目的を忘れていたが。


「あそこか?」


 彩香が言うと、女は頷いた。
 “ドア”の確認。
 ここに来た目的はそれだ。
 彩香はマティーニを飲み干して。


「あーなんか酔ったみたいだな。ねぇ、ちょいとあの窓、開けていい?」
「いいですよ」


 バーテンダーは彩香よりも、この小百合ちゃんと話をしたいらしい。
 そいつは喋らねぇんだよ、と心の中で言いながら、彩香は立ち上がって窓ガラスに近付いた。


『流動型のドアは、違和感があるんです。通ればすぐに分かります』


 風間は、そんな事を言っていたが。
 彩香は恐る恐る窓を開ける。
 違和感と言ったが、それがどんなものなのか、彩香はまだ体験していない。
 夏の夜風が頬を撫でて、多少は心地よかったが。
 彩香はゴクリと喉を鳴らして、腕を伸ばした。
 が、その途端。


「うわっ!?」


 思わず叫んで、腕を引っ込めた。
 あまりにも勢いよく引っ込めたから、身体ごと後ろに転がってしまう。


「どっ・・・どうかしましたか!?」


 バーテンダーは勢い余ってテーブルの足に頭をぶつけた彩香に駆け寄り、抱き起こした。


「いっ・・・いや、何でもない・・・」


 やっとの事でそう答える彩香の顔の近くを、窓から入ってきた虫が飛んでいく。
 それを見て、納得したように笑うバーテンダー。


「もしかして、虫が苦手なんですか?」


 凄まじい勘違いをしているバーテンダーに向かって、彩香は何とか笑って誤魔化す。
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