TRIGGER!2
 そして立ち上がると、腕をさすりながらカウンターに戻って。


「どこか怪我をしてませんか?」


 冷たいお絞りを差し出されて、彩香はそれを受け取りながら。


「大丈夫だよ。それよりさ、長居したら悪いから行くぞ」
「そうですか・・・また来て下さいね。小百合ちゃんも。カクテルは俺からのサービスにしておきますから」
「悪いね。迷惑ついでに頼みがあるんだけど・・・このお絞り、少しの間貸してくれないかな?」
「えぇ、いいですよ」


 愛想のいいバーテンダーに、彩香は近いうちにコイツに返しに来させるから、と、お絞りを持ったまま、バー“ムスク”を後にする。
 外に出て、彩香は女を呼び止めた。


「おい」


 お絞りは、窓ガラスに通した腕に当てたまま。


「聞いてねぇんだよ」


 何を? というように、女はこっちを見ている。
 風間が言っていた“違和感”。
 一度あっちの世界に行った人間なら、誰にでも分かると。
 彩香は自分の腕を見た。
 あの窓ガラスに腕を通した途端、まるで腕の中全部が機械でみじん切りにでもされたかのような痛みが走ったのだ。
 だけど、見た目には全く外傷はなく、赤くなってもいない。
 まだ痺れたような痛みは残っているが。
 風間がドアの確認に行くと言った時、ジョージが真っ先にパスした訳が、今になって分かる。


「お前も知ってたのかよ?」


 彩香の問いにも女は曖昧に笑い、彩香のジーンズの後ろポケットからメモを勝手に取り出して、次の『レッドルビー』を示す。
 そして歩き出した。
 くぅぅっと奥歯を噛み締めながら、彩香はドスドスと足を踏み鳴らして女の後を追う。


「つかお前、小百合って名前なのかよ?」


 その質問には、女はハッキリと首を横に振った。
 じゃあ何であのバーテンダーがそう呼んでいたのかを聞こうと思った時、スナック“レッドルビー”に着いた。
 看板はまだ点いていて、こっちは営業しているらしい。
 だが、またここでドアの確認をするのかと思ったら、気が重くなる。
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