TRIGGER!2
「今度はお前が確認しろよ・・・って、え?」


 振り向いたが、彩香は固まる。
 さっきまで2つまげで彩香と同じくらいの女だった筈が、いきなりヒゲを生やした中年のオヤジに様変わりしていた。
 目印の首もとのホクロが、薄いピンクのポロシャツから覗いている。


「今度はオヤジかよ・・・」


 うんざりしながら、彩香は言った。
 もう既にこの仕事から逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、オヤジが勝手に“レッドルビー”のドアを開けて店に入って行ったから、彩香も仕方なく店に入る。


「サトシ!!」


 途端に目に飛び込んで来たのは、この店のママらしい人物が、オヤジに抱き付いている場面だった。


「待ってたんだよ! 今日あたり来てくれるんじゃないかって思ってた!!」


 まるで恋人にでも再会したかのように頬を擦り付けて、ママは喜んでいる。
 店の中に他の客は居なく、小さなスナックだからなのか、他にホステスも見当たらない。
 それにしても。
 この喜びようは何なんだ、と、彩香が呆然としていると、ママは彩香にもカウンターに座るように言った。
 そして、焼酎を入れたグラスを差し出して。


「サトシは昔からこれしか飲まなかったもんねぇ。さ、飲んでおくれ。金なんて気にしなくていいからさぁ」


 嬉しそうに言うママに曖昧な笑顔を返しながら、彩香もグラスを受け取る。
 またコイツも、さっきのバーテンダーと同じような言い回しをする。
 まるで、死んだヤツにでも再会したかのようなーー。


「・・・・・」


 ふとそんな考えが頭を過ぎり、彩香は焼酎を飲んでタバコに火を点ける。
 そんなバカな事があるか。
 確かに、コイツは変装の腕が物凄く達者で、正体不明だが。
 今ここで触ってみても、間違いなくコイツは実体で、ちゃんと生きている。
 だがもしかしたら、コイツはこの街の人達が会いたがっている人間に化けているのかも知れない。


「気持ち悪・・・」


 彩香は小さく呟いた。
 何が楽しくて、そんな事をしているのか。
 そんなコイツを受け入れる側も、どうかしている。
 もし、彩香の想像が本当だったら、さっきのバーテンダーもこの店のママも、明らかに偽者だと分かって『小百合ちゃん』や『サトシ』に接している事になる。
 正に、不毛だ。
 こんな事をしたって何の成果も得られないし、前にも進めない。


「不思議な顔をしてるね」


 気がつくと、ママかカウンターの中から彩香の顔を覗き込んでいた。
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