TRIGGER!2
 人生に疲れ切った、年配のママさん。
 パーマをかけている髪の毛もそんなに整ってはいなくて、見ようによっては乱れている。
 顔に刻まれたいくつかのシワも、世の中の酸いも甘いも知り尽くした感じだ。
 きっと彩香の倍以上は、人生の経験を積み重ねているのだろう。


「いいんだよ。待ち焦がれている人間が目の前に現れてくれた、それだけでさ」
「偽者だろ」


 タバコの煙を吐き出して、彩香は言う。
 吐き出したのは煙だけじゃなく、多少の嫌悪感も混じっていた。
 だがママは、それを察して尚、彩香の言葉を笑い飛ばす。


「あんたが言ってるのは、至極まともな一般論だよ。だけどあたしにとっちゃ、そんな事は取るに足りない小さな事さ」


 じゃあ一体、何が重要なのか。
 そんな疑問は、顔に浮かんでいたらしい。


「そうだねぇ、大事なのは、ここだよ」


 そう言って、ママは自分の頭を指し示した。


「何だよそれ」
「自分の頭。一番怖いのは、記憶が薄れて行く事さ」
「・・・・・」


 そんなママの言葉は、彩香には全く理解出来なかった。
 隣に座っている筈のオヤジはいつの間にか、裏口のドアを開けてこっちを見ている。
 彩香はうんざりした顔で、そこに近付いた。


「お前が確認しろよ」


 そう言うが、オヤジはどうしようもないと言うように首を横に振るだけだ。
 コイツはドアの場所は分かるが、そのドアの種類までは分からないと、風間が言っていたが。
 どうやらそれは、本当のようだ。
 それを裏付けるかのように、オヤジはドアを開けて平気な顔で出入りしている。
 さっきのバーのドアは確認した結果、あの違和感から『流動型』だと裏付けられたが。
 コイツが通っても平気な所を見ると、こっちは固定型なのだろうか。
 そう思い、彩香もドアに自分の腕を通した。


「いってェ!?」


 途端にさっきと同じような痛みが走り、彩香は慌てて腕を引っ込めた。
 だがオヤジはこれ見よがしにドアの境目に立ってのたうち回る彩香を見て笑っている。
 ウソだろ、と、彩香はげっそりと呟いた。
 コイツがドアの種類を確認出来ないと言うのは、本当のようだ。
 こっちはこれだけ苦痛を味わっているというのに。
 やっと納得した彩香に笑顔を向けて、オヤジはまたメモを取り出すと、次の店“スターダスト”を指し示す。
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