TRIGGER!2
 そんな彩香に少しだけ笑顔を向ける友香。


「じゃあ、2つ目の質問。失声症の事ね」
「あぁ」
「それも本当よ」


 現に今、こうして話しているじゃないか。
 そんな彩香の疑問を先読みしたかのように、友香はまた笑う。


「ここにいると声は出るけど、あたしたちの現実世界ではどうしても喋れないの」
「そんな事あるのかよ」
「あるわね。現に今体感してるでしょ」


 確かに、今は喋りすぎるくらい喋っているが。
 だが、この世界の事にそれだけ深入りしている友香を、峯口は何故放っておくのか。
 見えてきた彩香のマンションには、まだ空き部屋がある。
 自分がそうだったように、友香もあのマンションに住ませればいいのに。


「あぁ、それは言われたけどね。断ったの。あたしはほら、彩香ちゃんと違って肉体派ではないから峯口さんの役には立たないし、立場的には傍観者でいるつもりだから」
「傍観者・・・」


 彩香の脳裏に、1人の女の姿が浮かぶ。
 夕暮れ時、マンションの屋上で会ったショートカットの女。
 この世界で人間が何をしようと、自分には関係ない。


『そう言うものだろ、人間は』


 屈託のない笑顔で、こう言い放つあの女は、どこか幸せそうだった。
 ちょうど、今の友香と同じように。


「あんた、背が高いショートカットの女、知ってるか?」


 マンションに到着してそう聞く彩香を、友香は振り返る。
 朝焼けに照らされるその情景は、あの女と出会った時のシチュエーションを彩香に思い出させた。


「もしかして、彩香ちゃんみたいな口調で喋る人?」


 少し考える素振りを見せて、友香は聞いた。
 彩香は頷く。


「もちろん、知ってるわ」


 友香はクスクスと笑いながら答えた。
 そして、聞き返す。


「彼女と会ったの?」
「一回だけ。あいつが“ドア”の種類があるってことをあたしに教えた」


 そう、と、友香は朝焼けに染まる空を見上げた。
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