TRIGGER!2
 フロアには変わらずに大音量で音楽が流れていて、ともすると相手の声が聞き取りにくい。
 だから隣同士で座ったジョージと彩香は、お互いに寄り添って耳元で囁き合うような体勢になっている。
 カウンターでそんな2人の後ろ姿を一瞥して、佐久間は立ち上がるとフロアを後にした。
 それを、頭を下げて見送る佐武。
 その時フロアが暗転して、客たちが歓声を上げた。
 どうやら、ショータイムが始まるらしい。
 一旦会話を中断して、彩香とジョージはステージに視線を向ける。
 昨日と同じ司会者が、マイクで叫ぶ。


「レディースエンドジェントルマン! 本日のショータイムのダンサーは何と、期待の新人だ!! かなりの美人だから、みんな楽しんでくれよ!!」


 拍手が鳴り響く中現れたのは、クリームイエローの衣装を身にまとった、華奢な女だった。
 彩香は眉をひそめる。


「あの女・・・」


 見覚えがあった。
 佐久間心療内科クリニックに入院していた、車椅子の少女だ。
 ここからでも微かに見える左腕の傷が、見間違いではない事を物語る。
 でもどうして、入院している筈の少女が、こんな所でショーをしているのだろうか。


「知り合いか?」


 ジョージが聞く。


「知り合いでもないけどな。佐久間の所に入院してるヤツだよ。何でこんな所に」
「治療の一環とか?」


 そうならいいが、車椅子に乗っていた少女はどう見ても、こんなに動ける状態ではなかった。
 だがあの時とは違い、今はその表情も生き生きとしていて、まるで別人だ。
 いくら治療の一環だろうと、佐久間がどれだけ優秀な医者であろうと、心を病んでいる人間がこんなに短期間でここまで立派なショーを演じられるだろうか?
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