TRIGGER!2
☆ ☆ ☆
見たこともないような広い敷地の半分を贅沢に使い、純和風の立派な庭園が広がっていた。
それに負けず劣らず勇壮な雰囲気を醸し出している平屋の和風家屋の一室に通されて、開け放たれた窓からぼんやりとその庭を眺めている。
鉄格子の狭い部屋を出てから常に、この背の高い男は、自分のそばにいる。
だが、わざわざこの男に話し掛ける気にはなれなかった。
穏やかではあるが何処までも冷徹なこの男の顔が、どうしても気に入らない。
あれ以来、自分の手のひらを見つめる癖がついていた。
真っ赤に染まっている。
匂いを嗅ぐと、生臭いのだ。
どんなに洗っても洗っても、この血の匂いと色は、自分の手から離れてはくれない。
それはまるで、母親に監視されているようで。
「母親に似ているな」
そう言ったのは、この部屋の豪華なソファに座った老人だった。
嫌悪感をあらわにして、老人を睨む。
この爺さんも隣にいる男と一緒で、穏やかな笑みをたたえてはいるが、何処までも冷徹な顔だった。
「褒めているんだよ。君の母親も、美人だった」
「それで、どうされますか?」
背の高い男はそう聞いた。
それ程考える素振りも見せずに、老人は頷いて。
「気に入ったよ、引き取ろう。この子はちょうどいい素材だ」
「ですがまだ13だそうです。精神的にも成熟してない年齢で、仕事に耐えられるでしょうか?」
普通に受け取れば心配とも受け取れる言葉だが、この男は微塵も心配などしてはいない。
むしろ心の奥底では、楽しんでいる。
冷徹な笑みを浮かべて。
老人はゆっくりと立ち上がると、しわがれたその手を伸ばしてこっちの頬に触れる。
「気に入ったのは、この目だよ。大丈夫だ、きっといい仕事をしてくれる。やはりこの子は、私の元に来る運命だったんだな。父親である私の元に、な」
瞬間、その手を振り払い。
その場にうずくまり、自分の両肩を抱く。
自分には、生まれた時から父親なんて居ない。
それに、この老人の手が自分の身体に触れるのが、許せなかった。
ーー何故なら。
「この子はきっと、私の、素晴らしい引き金となってくれるだろう」
高らかに笑いながら部屋を出て行く老人。
ーーこの老人の手にも、濃くて生臭い血の匂いがこびりついていた。
見たこともないような広い敷地の半分を贅沢に使い、純和風の立派な庭園が広がっていた。
それに負けず劣らず勇壮な雰囲気を醸し出している平屋の和風家屋の一室に通されて、開け放たれた窓からぼんやりとその庭を眺めている。
鉄格子の狭い部屋を出てから常に、この背の高い男は、自分のそばにいる。
だが、わざわざこの男に話し掛ける気にはなれなかった。
穏やかではあるが何処までも冷徹なこの男の顔が、どうしても気に入らない。
あれ以来、自分の手のひらを見つめる癖がついていた。
真っ赤に染まっている。
匂いを嗅ぐと、生臭いのだ。
どんなに洗っても洗っても、この血の匂いと色は、自分の手から離れてはくれない。
それはまるで、母親に監視されているようで。
「母親に似ているな」
そう言ったのは、この部屋の豪華なソファに座った老人だった。
嫌悪感をあらわにして、老人を睨む。
この爺さんも隣にいる男と一緒で、穏やかな笑みをたたえてはいるが、何処までも冷徹な顔だった。
「褒めているんだよ。君の母親も、美人だった」
「それで、どうされますか?」
背の高い男はそう聞いた。
それ程考える素振りも見せずに、老人は頷いて。
「気に入ったよ、引き取ろう。この子はちょうどいい素材だ」
「ですがまだ13だそうです。精神的にも成熟してない年齢で、仕事に耐えられるでしょうか?」
普通に受け取れば心配とも受け取れる言葉だが、この男は微塵も心配などしてはいない。
むしろ心の奥底では、楽しんでいる。
冷徹な笑みを浮かべて。
老人はゆっくりと立ち上がると、しわがれたその手を伸ばしてこっちの頬に触れる。
「気に入ったのは、この目だよ。大丈夫だ、きっといい仕事をしてくれる。やはりこの子は、私の元に来る運命だったんだな。父親である私の元に、な」
瞬間、その手を振り払い。
その場にうずくまり、自分の両肩を抱く。
自分には、生まれた時から父親なんて居ない。
それに、この老人の手が自分の身体に触れるのが、許せなかった。
ーー何故なら。
「この子はきっと、私の、素晴らしい引き金となってくれるだろう」
高らかに笑いながら部屋を出て行く老人。
ーーこの老人の手にも、濃くて生臭い血の匂いがこびりついていた。