TRIGGER!2
☆  ☆  ☆



 秋田から借りた単車は、すこぶる調子が良かった。
 さすが、溺愛しているだけの事はある。
 真夜中の風を切り、彩香は海岸線に向かって単車を走らせていた。
 港の手前、道路を挟んだ右側の敷地。


「ここだな」


 単車を止めてヘルメットを取り、彩香は辺りを見回す。
 繁華街とは違い、小さな街灯しかないその空間の奥に、峯口が言った通りの黒く塗りつぶされたプレハブが建っていた。
 暗闇の中では見過ごしてしまいそうなその建物の周りは、鉄製のフェンスが敷地を囲んでいる。
 だが、よく目を凝らして見ると、不思議な造りの建物だった。
 まるで積み木をランダムにくっつけたように、プレハブがいくつも複雑に重なり合っている。
 ますますここが何の施設なのか、全く見当もつかない。
 だが、いつまでもここで眺めていても仕方がない。
 彩香は、高さ2メートルのフェンスを、よっ、と乗り越えた。
 先にジョージが来てる筈なのだが、建物に電気は点いていなく、人の気配もない。
 穏やかな潮風の中、彩香は暗い足元に注意しながらプレハブに近づいた。
 入り口はここから見る限り一カ所だけ。
 そこには、小さなプレートが掲げられていた。


『ドリームコーポレーション』


 そう書いてある。
 それでも、何の会社なのかさっぱり分からなかった。
 ーーそれにしても。


「どこにいるんだよ、あの大木」


 もしかして場所を間違えたのかと思ったが、こんな怪しい建物はそう何個もある筈がない。
 あの黒ずくめの連中は、水島千絵をここで雇用主に引き渡した、と言っていた。
 ただ単にここが指定されただけという可能性も大きいが。


「・・・・・」


 彩香は口元に手を当てて、しばらく考え込む。
 やっぱり、このドリームコーポレーションという建物が何なのか、気になって仕方がない。
 どこか入れる場所はないのか、と顔を上げたその時、ちょんちょん、とTシャツの裾を引っ張られた。
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