TRIGGER!2
 物凄く腕がいい医者であり、一連の件に絡んでいる“記憶を忘れる薬”などというものを開発した超一級の研究者。
 そして。


「ーー誰だったかしら?」


 物凄く忘れっぽいのだ。
 このパターンはとっくに読めているのだが、何度となく体験しても、彩香にとってこの医者はストレス以外の何物でもない。
 こめかみをヒクつかせながら、彩香はずかずかと水島に近付いて、その腕を掴む。


「何やってんだよこんな所で!」
「何してたか? もちろん、研究よ」
「誘拐されてんだよお前!!」


 怒鳴った所で、水島はニコニコしながら、椅子から立ち上がりもせずに彩香を見上げ、膨大な紙の山を指差して。


「ここってパソコンが使えないんですって。だから夢中で紙にレポート書いてたんだけど・・・見て、この量♪」
「お前なぁぁぁっ!!」


 もうこんなヤツ放っておこうかと思った時、彩香は気配を感じた。
 水島を乗り越えて反対側にジャンプすると、部屋に入って来ようとしていた黒ずくめの男を、勢いに任せて蹴り倒す。


「行くぞ!!」


 有無を言わせずに彩香は水島の腕を無理やり掴んで立ち上がらせると走り出す。


「あぁっ! わたしの研究ぅぅ~!!」
「やかましいこのバカ!!」


 後ろ髪を引かれまくっている水島を引きずるようにして、彩香はダッシュで部屋を出た。
 迷路のような部屋を何個も通り過ぎながら考える。
 さっきの裏口だけは、絶対に通りたくない。
 取り敢えずこの建物から出て、マンションに戻ればいい。


「おい!」


 走りながら、彩香は怒鳴る。


「出口、どっちだ!?」
「ウソ、出口も分からずに走ってたの? 信じられない!!」
「テメェにだけは言われたくねぇっ!!」


 ああもう、と頭をかきむしりながら、彩香は闇雲に走る。
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