TRIGGER!2
 風間は言った通りジョージと合流して敵を上手く引きつけたらしく、彩香達の進む方向には誰も居なくなっていた。
 メモを見ながら、彩香は水島を引き連れてどんどん進む。


「もうちょい早く走れねぇのかよ!」
「どこ行くのぉ~?」


 そんなに動いていない筈なのに、息切れ切れに大ボケをかます水島。
 もうツッコミをいれる気力もなく。


「えぇと・・・右だな。しっかし隼人、よくこんな道順覚えたな」
「あら?」


 いきなり立ち止まった水島に、止まるんじゃねぇよと彩香は文句を言って。
 その視線の先に、1人の人間の影を見た。
 暗い部屋の中、その影はプレハブをくっつけている壁の通り道に寄りかかって腕を組み、じっとこっちを見ている。
 彩香は水島を少し後ろに押しやり、ぐっと足に力を入れた。
 相手が1人なら。
 小学生並みの体力しかない水島を抱えていたって、勝てる見込みはある。
 そう思い、彩香がジリ、と足を踏み出した、その時。


「薬は足りているか?」


 声音からして、それは男だった。
 その男は静かに一歩、こっちへ歩み寄る。
 距離が近くなった分、その姿がおぼろげに見えた。


「・・・・・」


 警戒心を解かず、それでも彩香は半歩下がる。
 男は黒ずくめの連中とは違う。
 同じように黒い色だが、スーツを着ていた。
 彩香の呼吸が何故か、荒くなる。
 いつでも繰り出せるように構えた拳が、自分の意志とは無関係に細かく震える。


「ーー薬・・・?」


 声を出してみて気が付いたが、異様なくらい喉が渇いていた。
 男の顔は、暗がりの闇に隠れて見えない。
 だが、微かに笑ったような気配がした。


「この先にドアがある。右が出口だよ」


 それだけ言うと、男は暗闇の中に消えて行った。
 完全に気配が消えたのを確認すると、ようやく彩香は警戒を解く。
 ぎこちなく両手を下ろして、彩香は後ろに立っている水島に声をかけた。
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