TRIGGER!2
「知り合いか?」


 額に滲む汗を手の甲で拭いながら。
 だが水島は、白衣の胸ポケットからタバコを取り出して、彩香に差し出した。


「落ち着きなさいよ。過度なストレスは身体に悪いわ」
「知り合いなのか?」


 低い声で再び聞いてくる彩香に、水島は差し出したタバコを取り出すと、それをくわえて火を点けた。


「あれはアナタに聞いたのよ。わたしはあくまでもただの開発者で、薬の生産量なんて関係ない。でもあの質問は、もう一つの意味にも取れるわね」


 煙を吐き出しながら、水島は言う。
 薬は足りているか。
 それが彩香に向けられたものなら。
 まるで、彩香が薬を使っているみたいではないか。


「見覚えねぇよ、あんなヤツ。何か勘違いしてんじゃねぇの?」
「・・・ま、いいけど。でも彼の言うこと、鵜呑みにするの?」


 出口は右だ。
 彩香は風間から貰ったメモを見直す。


「合ってるよ」
「そうかしら? さっき、道順間違えてたわ」


 ウソだろ、と思ってメモを見るが、もう既に自分がどこをどう曲がったのかなど、覚えている訳もなく。


「だから方向は逆。ここから見て左が出口になっているはずよ」
「じゃあ何で間違えた時に言わねぇんだよ」
「だぁって、息が切れてて・・・余計な体力使いたくなかったから」
「てんめェ・・・」


 わなわなと震える彩香。
 少しはまともに喋っているようだが、やっぱりこの女、根本的に嫌いだ。


「彼は敵よ。迂闊に言葉を信じたら、痛い目見るわよ」


 そうは言っても。
 彩香は次の部屋に進む。
 男が言った通り、そこにはドアが2つあった。


「なぁ」


 彩香は水島を振り返った。


「最近頭が重いんだよ。睡眠不足なのか?」
「人間にも色々なタイプがいてね、必ず八時間寝なきゃ体調が悪くなる人や、三時間でも元気な人がいる。あなたは後者だから、睡眠不足くらいで頭痛なんてしない」
「じゃあ何だよ」
「さぁ・・・頭痛薬飲めば治るでしょ」


 そう言って、水島は左側のドアの前に立つ。
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