TRIGGER!2
 それでも医者かよ、と彩香は文句を言った。
 そもそもコイツが怪しい薬なんか開発するから、こんな事になっているのだ。
 今回だって悪い奴らに誘拐までされて。
 それだけならまだいいが、命の危険だってあった筈だ。
 それをこの女は、目の前でニコニコしながら立っている。


「早く帰りましょ。この世界は好きだけど・・・時間がもったいないから」
「お前さぁ」


 彩香はそんな水島をじっと見つめて。


「ホント、何がやりたいんだよ?」
「自分のやりたい事をやれれば、それでいい」
「他人に迷惑かけてでも、か?」
「迷惑かどうかなんて、かけられた本人が決める事よ。それにわたしの研究目的はあんな薬を造る事じゃないわ」


 精神と肉体の分離。
 以前水島は、そんな事を言っていた。
 安いSF映画じゃあるまいし、そんな事が現実に出来る訳がない。
 それでも、峯口が天才と認めるこの女は、本気でこの研究をしているのだ。


「だから、この世界は好きなの。ここには大きな手掛かりがある」
「何だよ、その手掛かりって?」


 眼鏡を持ち上げて彩香を見つめ、水島はニヤリと笑う。


「生きている状態の人間がこの世界に居続けると、精神が崩壊するわ。だけど当然、例外もいる」


 彩香はタバコを寄越せとジェスチャーで水島に伝える。


「例外?」
「えぇ。言葉が喋れなくなったり、姿を変えたりね」


 心当たりが、ある。
 友香はこっちでしか喋れなくて、この世界に長居出来ない体質だ。
 四階のホクロは常識では考えられない程姿を変え、2つの世界を繋ぐドアを見つける事が出来る。
 何故なのか。
 この世界はそれ程までに、人間の精神に強い影響を与えていると言うのか。
 峯口、そしてその周りの人間は皆、この世界に深く関わっている。
 風間やジョージだけではなく、目の前にいる水島や友香、四階の住人、そして雛子まで。


「・・・・・」


 彩香は目を閉じる。
 そして一呼吸おいてから、ゆっくりと目を開けた。


「こんな場所で議論しても仕方ねぇ。帰るぞ」


 言いながら、彩香は右側のドアに手をかける。
 水島は少しだけ眉をひそめたが、何も言わずに彩香の後に続いた。
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