TRIGGER!2
「今言えるのは、これだけだ」
雛子はそう言って、屋上のドアに向かって歩き出した。
それを振り返りもせず黙っている彩香。
ドアノブに手をかけて、そんな彩香の背中に、雛子は声を掛ける。
「美和の事でお前も動いてくれる事、感謝する」
それだけ言うと、雛子はドアの向こうに姿を消した。
朝焼けの中、彩香は深く息を吐く。
思い出したのは、ドリームコーポレーションの建物を出る直前に会った、黒いスーツの男と接触した事だ。
暗闇の中、シルエットしか見えなかったあの男。
あの男を見た時に、どうしようもない恐怖が彩香の身体中を駆け巡った。
身体が震え、動けなくなったのだ。
彩香には見覚えのない、あの長身の男。
「見覚えが・・・ない・・・?」
思い出しても、心臓がドキドキする。
呼吸が荒くなり、彩香は手すりに背中を擦り付けるようにして、その場に座り込んだ。
本当に、見覚えがないのか?
震える手で、さっき水島に手渡されたカプセルを、ゆっくりと目の高さまで持ち上げて。
もう一度、自分に問い掛ける。
あの男の事を、本当に、覚えていないのか?
なら何故、“覚えていない”などという思考が湧いてくる?
“知らない”でいいではないか。
覚えていないという事は、ただ“忘れているだけ”じゃないのか?
「ーーっ!!」
小さく呻いて、彩香は頭を押さえる。
思い出したくない。
せっかく、戻ってくる場所を見つけたのだ。
峯口も、ジョージも風間もいる、この場所に。
頭の中で警笛が鳴る。
それはまるで彩香の頭を内側から破壊するかのような大音量だった。
耐えられず、震える手で彩香は、水島に手渡された薬を口に入れようとした。
その時、カンカン、と鉄製の非常階段を登ってくる足音が聞こえ。
何かに弾かれたように身体を強ばらせ、彩香は薬をポケットにしまう。
「おー彩香、待っててくれたのか?」
あれだけ追いかけっこをしていた筈なのに疲れも見せず、ジョージは片手を上げて彩香に声をかける。
「ジョージ・・・」
「ちゃんと隼人も連れてきたぜ」
「お前が連れて来たんじゃない、俺は自分の意志でここに戻ったんだ」
ジョージの後ろから屋上に上がった風間は、嫌そうな顔で言った。
だがふと笑って彩香を見つめ。
「ただいま」
そう言った。
「・・・・・っ」
ーー不覚にも。
泣いてしまいそうになる。
こっちを見て微笑んでいるジョージと風間。
彩香はポケットに入れたままの手に触れたカプセルを、震える手で握り締め。
「・・・お帰り」
そう言うのが、精一杯だった。
雛子はそう言って、屋上のドアに向かって歩き出した。
それを振り返りもせず黙っている彩香。
ドアノブに手をかけて、そんな彩香の背中に、雛子は声を掛ける。
「美和の事でお前も動いてくれる事、感謝する」
それだけ言うと、雛子はドアの向こうに姿を消した。
朝焼けの中、彩香は深く息を吐く。
思い出したのは、ドリームコーポレーションの建物を出る直前に会った、黒いスーツの男と接触した事だ。
暗闇の中、シルエットしか見えなかったあの男。
あの男を見た時に、どうしようもない恐怖が彩香の身体中を駆け巡った。
身体が震え、動けなくなったのだ。
彩香には見覚えのない、あの長身の男。
「見覚えが・・・ない・・・?」
思い出しても、心臓がドキドキする。
呼吸が荒くなり、彩香は手すりに背中を擦り付けるようにして、その場に座り込んだ。
本当に、見覚えがないのか?
震える手で、さっき水島に手渡されたカプセルを、ゆっくりと目の高さまで持ち上げて。
もう一度、自分に問い掛ける。
あの男の事を、本当に、覚えていないのか?
なら何故、“覚えていない”などという思考が湧いてくる?
“知らない”でいいではないか。
覚えていないという事は、ただ“忘れているだけ”じゃないのか?
「ーーっ!!」
小さく呻いて、彩香は頭を押さえる。
思い出したくない。
せっかく、戻ってくる場所を見つけたのだ。
峯口も、ジョージも風間もいる、この場所に。
頭の中で警笛が鳴る。
それはまるで彩香の頭を内側から破壊するかのような大音量だった。
耐えられず、震える手で彩香は、水島に手渡された薬を口に入れようとした。
その時、カンカン、と鉄製の非常階段を登ってくる足音が聞こえ。
何かに弾かれたように身体を強ばらせ、彩香は薬をポケットにしまう。
「おー彩香、待っててくれたのか?」
あれだけ追いかけっこをしていた筈なのに疲れも見せず、ジョージは片手を上げて彩香に声をかける。
「ジョージ・・・」
「ちゃんと隼人も連れてきたぜ」
「お前が連れて来たんじゃない、俺は自分の意志でここに戻ったんだ」
ジョージの後ろから屋上に上がった風間は、嫌そうな顔で言った。
だがふと笑って彩香を見つめ。
「ただいま」
そう言った。
「・・・・・っ」
ーー不覚にも。
泣いてしまいそうになる。
こっちを見て微笑んでいるジョージと風間。
彩香はポケットに入れたままの手に触れたカプセルを、震える手で握り締め。
「・・・お帰り」
そう言うのが、精一杯だった。