鈍恋diary
目的の本屋さんは、左に曲がれば見えるとこなのに、貴史君は右に曲がる。
「ちょっと、こっち反対!」
「知ってる」
知ってるならなんで?
また右に曲がって、細い路地を進む。
あたしは、訳もわからず、ただ引っ張られてくだけ。
辿り着いたのは、砂場とブランコと滑り台があるだけの小さな公園。
古惚けたベンチが見えて、そこに座るのかと思ったら、すぐ脇にあった桜の木の下に連れてかれてた。
「お前、ホント無自覚すぎるから」
「え…何が?」
言われた意味がわからず顔を上げると、貴史君は溜め息を吐いて、あたしの手を離してくれた。
「言っても理解しない史華が悪いから、謝らねぇ」
「だから、何が?」
問い掛けたけど返事はなくて、代わりにぎゅっと抱き締められた。
この間抱き締めてきた時は謝ってたから、謝らないってのはこのことなんだろうけど…
なんであたしが悪いのかは全く理解できない。
「あの…なんでこうなるの?」
「史華のこと抱き締めたいって思ったから。
抵抗する気ないなら黙ってろ」
抵抗する気がないと言うより、いきなりで身動きできないだけ。
しかも、さらっと抱き締めたいと思ったとか言われたら、思考まで停止しそう…