鈍恋diary

電車から降りても、あたしは貴史君の手をギュッと握ったままだった。

「史華、ちょっと待てよ」

腕を引かれて立ち止まる。

「…何?あたし、乗り換えだから」

「わかってるけど、もうちょい人少なくなってからでも間に合うだろ?」

「でも、席無くなるから…テーピングとかありがとね。なんか迷惑掛けてばっかでごめん…じゃあね」

振り返って、一気にそう言って…

あたしは貴史君の手を離して、駆け出してた。

足は痛くない。

「バカ、走んなよ!」

貴史君の声が聞こえたけど、足を止めずに人混みの中を走ってた。

貴史君の前でどんな顔してたらいいのかわからなくて…

それ以上に、彼の表情を見ることができなかった。

身勝手なのは、きっとあたしの方だ。

苦手だからイヤって…そう決めつけて、貴史君の気持ちなんて考えてなかった。

他人にどう思われても構わない。

でも、相手の気持ちは考えなきゃいけないのに…

あたしは、嫌な顔ばかりして、貴史君にイヤな思いをさせてた…

あたしのことを心配して気遣ってくれた人を、傷付けてしまってたんだとその時気付いた。
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