私だけの魔法の手。
「名前、私知らないのに」
「あ、俺?」
「うん」
「蒼」
「あお?」
「うん。本名はね」
「へぇ……あお、か…」
はじめて口にした名前がくすぐったくて、チラッと様子を伺うようにして目線を上げると、嬉しそうに細められた瞳にぶつかって胸が高鳴る。
すぐに視線を逸らして、胸に額を押し付けるようにしてしまって、これだって充分に恥ずかしくない?と、内心でもう一人の私が焦っていた。
「勇気出して声掛けたら、次の日から思いっきり避けられるし?」
「え?あ、あの……気付いて、た、の?」
「そりゃあ、気付くだろ?毎日通ってた子が次の日から全く通らなくなる、って」
「そ、っか…」
「ん……すげぇへこんでた…」
「ごめんなさい…」
「明日休みでさ。へこんでたから仕事終わって酒飲んだら缶ビール二本しか飲んでねぇのにフラフラでさ……でもこんな展開なら、偶然の神様に感謝だな!」
ギューってきつく抱き締められながら伝えられた言葉に、ただの偶然だったら本当に凄いなぁ、とか呑気に思ってしまった。