私だけの魔法の手。


「終了…って言いたい所だけど、ちょっとだけカットさせてもらってもいい?」

イスを戻されて鏡越しに見つめられる。
抗う事なんか知らないみたいに、コクン、と頷いた私に笑い掛けてくる蒼。


もうそれだけでどうしようもなく顔に熱が篭もって、そんな自分が映る目の前の大きな鏡が居たたまれなかった。



俯いて小さく息を吐き出すと、蒼は壁の収納の一部を引き出して手許に近づける。
チラリと視線を向ければ、そこにはよく手入れされているのが分かる、ハサミとか櫛とかの類いが並んでいた。







自宅にこんな設備があるなんて普通じゃないし。
ドライヤーの柔らかな風で髪を乾かしてくれているその指先も只者じゃない。


となれば、考えられる事は唯ひとつ。
私が新人だと思っていたこの人は ――――― 。




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