海風の如く
「なるほど、なら俺たちはできる限りことをしたってことか」
土方は薄く笑う
頭のキレる土方ができる限りやったと言うのなら、それ以上打つ手がないのだろう
現に華蓮も思いついていない
ただ──────
「ですが、一つだけ、史実と違う点があります
この事件は一週間前に起こるはずだったんです」
池田屋事件を経て、長州藩が苛立っているのも、尚且つ慎重に動くのもわかる
だがそれは史実でも同じだ
それで一週間何もないということは、坂本龍馬が何かしら関わったのか、単に気まぐれなのか………
歴史を変えようとしているのは華蓮を含めた新撰組と坂本龍馬だけのはずで、他の誰かが……というのは考えにくい
そんなわけで考えてもわからないことだらけなのだ
「それじゃあ、まだわからねぇな」
話についてこれない人たちはともかく、山南や井上は難しい表情をしていたのだが、土方だけは違った
「確実に蓮が知ってるモノとは違う未来になってるわけだろ?
そりゃ好都合だぜ
出陣命令がないなら、このまま怪しい連中を尾行し、尻尾を出したらとっつかまえる
それで計画が少しでも崩れれば本望
もし命令が下っても、この情報を追いつつ活動したいと言えば、九条河原なんて離れた所に陣を構えろなんて言わねぇだろ」
堂々と意見を述べる土方は、普段よりもいきいきとしているように見えた
「ふふ…相変わらず土方君は面白い
ですが、私も賛成ですよ」
何が面白いのかはサッパリだが、山南も頷き、微笑む
難しい話を聞いていた他の幹部たちも、新撰組の頭脳である二人が余裕そうなのが伝わったのか安堵し始めていた