海風の如く
冷静な土方までもが動揺している
華蓮はまずい───と思った
「ふ、二人とも落ち着いて下さい!!」
ここでうろたえては、相手の思うツボなのかもしれない
「永倉さん、長州藩にはまだ逃走する様子がないんですよね!?」
「ああ、陣の前にいる奴らは退こうとしてない
だが、妙に陣が静かなんだ」
──静か……………?
最前線で戦う人は退く気がないのに………これはどこかおかしい
かと言って御所を狙うにしても、この混乱に乗じて、という作戦を読んで既に御所には護衛が固まってきているはず─────
──だとすれば!!
「もしかすると、最前線の人たちは囮で、長州藩士のほとんどが既に逃げ出しているかもしれません!!」
その新狩りを務める人たちも、この火事を上手く利用して逃げる算段だろう
華蓮はここにきて、ハッキリと焦りを感じ取った
「永倉さん!
急いで残党を捕らえてください!!」
華蓮の指示に土方も無言で頷く
「わかった、すぐ行く!!」
「くれぐれも、火には気をつけて!」
去り際に叫んだ言葉に対して、永倉は後ろ向きのまま手を振って応えた
「……新八の目を盗んでどうやって逃走したんだ、長州の奴らは……………」
華蓮も長州藩士が逃げることは想定していたし、それを含めて永倉が監視していた
だが、それを上回る行動を取ってきたのだ
「……向こうにも相当な切れ者がいるみたいですね」
「ああ、厄介だな」
「そうですね………でも今は」
──それどころじゃない
今日は風が強い
長州藩士たちの放った火は、勢いを増して燃え移っていた