海風の如く
地獄からの救い手
ジリジリと照りつける太陽
屯所という室内にいても外にいても暑さは和らぐことがない
元治元年七月
池田屋事件から約一ヶ月
華蓮は幕末にて二度目の夏を迎えていた
「………暑い」
華蓮はボソッと誰にも聞こえないように一言漏らす
普段は愚痴や文句なんてめったに口に出さない華蓮が思わず言ってしまうくらい京の夏は暑いのだ
その上、先月起こった池田屋事件で長州藩が本腰を入れて動き出してきたため、新撰組も警備を強化しているので忙しい
先月の終わりから、特に厳戒態勢を維持しているが、まだ新しい動きはない
長州が動き出してしまった以上、止めることは厳しいが、京の町が火の海になることだけはなんとしても防がなければならなかった
「蓮さん……?また考え事ですか?」
「あっ……すみません、沖田さん」
──いけない、仕事中だ
今は一番隊で巡察をしている
五感を研ぎ澄まして、気配を読まなければ先手を取られてしまうことになりかねない
これは以前、初めての巡察の時に沖田から教わったことだ
「別に謝ることはないですけど……
僕は蓮さんの方が心配です」
「……何がですか?」
前みたいに屯所を飛び出したりという危険なことをしているつもりはない
「考え過ぎて体調を崩したりしないのかといつも心配してますよ
僕は難しく考えることは苦手なものですからね」