海風の如く




翌日から、土方の指示の下、新撰組は街の復興と長州の残党狩りに精を出していた



残党狩りとは言っても、捕らえるだけ



しかし池田屋の時と同じようにできるわけもなく、捕らえた人は直ちに会津藩に引き渡していた







「……この人たちって引き渡した後どうなってしまうんですか?」



なんとなく想像がつく気がするが、思わず聞いてしまった



「尋問されて……まあ生きてはいられないでしょう
切腹できればいい方です」



「……そうなんですか」



沖田はいつも通りさらっと答えた



武士にとって切腹とは、戦って斬られて死ぬのと同じくらい誇らしいことだとされている



実際は介錯といって、後ろから首を落とす人を必要とする場合もあるのだが、それをしない武士はさらに天晴れだと称えられた






しかし華蓮はそうは思わない



それは自分自身が切腹など理解不能な時代から来た人間だからかもしれないが、自ら命を絶つことが立派なわけがない



この考えが揺らぐことは今までだって一度もなかった





──生きていなければ何もできないもの



こうやって仲間と一緒にいることも、ご飯を食べたり、自分の好きなことをしたり、他人を愛することも………



死んだあとの世界のことはわからないが、きっと生きていなければ成せない



華蓮の考えがこの時代の人々にすぐ理解されずとも、命を粗末にして欲しくない



だからこそ、今、長州の残党を捕縛して会津藩に引き渡すこの仕事は正直複雑な気持ちになった





「蓮さん………今は我慢して下さい」



「はい?」



沖田はいつになく悲しげな表情



「納得し難いとは思いますけど、今はこうするしかないんです」



「沖田さん………」



彼も本望ではないのだ



それが華蓮にも伝わった



「はい……ただし、我慢するのは今だけですよ」



「はははっ……そうですねぇ」



冗談めかして答えると沖田は笑って返してくれた




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