海風の如く
それから一刻ほどたって、土方に呼ばれた華蓮は伊藤に気づかれないように古株の幹部を集めて欲しいと言った
巡察中の沖田が帰ってきて、全員が伊藤の部屋から一番遠い土方の部屋に集まった
なぜ土方の部屋が一番遠いのかは言うまでもない
華蓮が女であるという事実を隠すため、信用のない人物は遠ざけているのだ
「それで……どうしたのかね、蓮君」
華蓮が取り乱すことなどあまりないため、重苦しくなっている雰囲気の中、口を開いたのは近藤
未来を知る華蓮の言葉をみんなが待っている
でも、華蓮はまだなんと伝えていいのか悩んでいた
「えっと…………まずは今回の新入隊士のことについて詳しく教えて頂いてもいいですか?」
華蓮が伊藤だと思う人物がそうであると、確認する必要がある
ほぼ確定なのは間違いないが、近藤からちゃんと聞きたかった
「ん?、あぁ
今回は平助が紹介してくれた伊藤甲子太郎殿と伊藤殿が引き抜いた約十名が入隊することになった
伊藤殿は山南君や平助と同じ北辰一刀流の免許皆伝者であり、道場主だ」
近藤が伊藤の免許皆伝をしたあたりから、皆の顔つきが変わる
近藤と同じ道場の跡取りとなれば、相当な腕前のはずだ
「……そう、ですか」
認めたくないけど、これは受け入れざるを得ない状況
一旦、入隊させてしまった以上、隊規により抜けることは許されない
華蓮は俯いた
「それで、伊藤がどうかしたのか?」
土方は不安げな様子の華蓮を見過ごしはしない
古株の会議となった時点で、華蓮がきちんと話さなくてはならないことは決まっていたようなものだ
「……黙ってねぇで、話せ
お前とお前の役目を理解してるんだ、今さら受け入れられない事実なんてねぇよ」
華蓮がなかなか話そうとしないので、土方が急かした
──でも、でも…………これはそんな簡単なことじゃない
だが、話さないという選択肢自体がもはや華蓮には残されていない
覚悟を決めて、前を向く
「落ち着いて、聞いて下さい」