海風の如く
「まず、伊藤甲子太郎とは史実だと、頭のキレる策士だと伝えられています
彼は攘夷の考えを持ってはいますが、どちらかというと長州に似ているんです
そして…………次第に溝が深まります
ですが、その前に彼の饒舌さに居場所をなくしたと落胆した山南さんは脱走して切腹すると伝えられています
山南さんは最後の仕事として、隊規の厳しさを隊士たちに知らしめることを選ぶんです」
『なっ、なんだと!?』
何人かの声が揃う
ただ、その本人である山南はあまり表情を変えない
「それだけではありません
山南さんの切腹を承諾したことで、平助君は土方さんたちとの関係が崩れ始め、伊藤派分離の際に伊藤派として出て行ってしまうんです」
「………俺もか」
自分が紹介してしまったことで、同じ北辰一刀流である山南の命を危険にさらしているだけでなく、新撰組の危機にもなると思いこんでいる
落ち込むのも無理はない
「分離した後、彼は局長暗殺を謀り失敗しますが、後に新撰組が仕返しをし、その時に平助君は亡くなるんです
油小路の変と聞いていますが、その時の伊藤派討伐隊は原田さん、永倉さん…お二人です」
もはや、史実があまりにも重すぎてみんな整理できていなさそうだった
今、とても仲がいい三人が油小路の変では殺し合うことになってしまうのだ
当然のように全員が黙ってしまう
「……もっと早く言えばよかったですよね
だけど…………私はこの通りにはならないと思っています」
いや、絶対と言っていいほど自信がある
散々絶望的状況だと伝えているのにもかかわらず──
「どうしてですか?」
さすが沖田だ
彼ほど動揺しない、ポーカーフェイスはいない
そして、史実の状況をなんとか改善したいと思っているのだろう