海風の如く
「君の小姓が僕に素っ気ないのだよ、土方君」
「それで?
教育でもし直せとおっしゃりたいんですか?」
「いやいや、その素っ気ない所も僕の好みだからね
1日貸して欲しいんだ」
『…は!?』
朝餉の時に嫌と言うほど土方に華蓮の話をしているかと思えば、これだ
たまたまお茶を運んできていたので、華蓮も聞いてしまっている
「い、伊藤参謀!
私は土方さんの小姓なんですよ?」
伊藤の自己中発言にはもう限界
はっきりと言ってしまいたいものだった
「いったい何なんだ?」
隣にいた原田の独り言は華蓮にも聞こえていた
幹部での朝餉であるから、他の皆も怪訝そうな表情だ
「俺が許すわけないだろう
蓮は優秀な小姓なんだ
1日いないだけでも困る」
土方が冷静かつ、はっきりと答える
──1日いないだけでも
華蓮にとって嬉しいものだった
しかし、このままにするわけにはいかない
──案外、何かのきっかけになる…?
土方の言葉によって華蓮は冷静さを取り戻した
「あの、何かやって欲しいことでもあるのですか?」
「おいっ、蓮!!」
「用事なら、小姓と隊務の仕事合間に済ませておきますけど…」
土方が呼び止めたことに関してはスルー
──もしかしたら、何か伊藤参謀のことがわかるかも!
それに、あんまり庇われると、逆に怪しまれる!!
そんな目線を送ると土方も一旦黙り込む
史実でどんなことをして、だいたいどんな人物であったかは知っているが、伊藤の本性まではわからない
それを知るチャンスかもしれないのだ
伊藤の返事を待ちながら、のどをゴクリと鳴らす
「僕の話し相手をしてくれないかい?」