海風の如く
──ちょっと待って……今、なんて言ったの?
その場の空気が凍ったのは言うまでもない
「てめぇっ!!
蓮はお前の仲良しごっこに付き合うほど暇じゃねぇんだよ!!」
我慢ならず、ついに雷を落とした土方
「と、歳……落ち着け」
近藤はいつものようになだめる
「僕はふざけて言っているわけではないよ
前々から湊上君とはゆっくり話してみたかったんだ」
その微笑みの裏にはどんな意図があるのか
今は全くわからない
「おい、蓮、どうすんだよ!?」
コソコソと原田に言われるものの、華蓮自身も多少迷っていた
土方の言うとおり行かない方がきっと賢明だ
しかし、伊藤と一対一で話せる絶好のチャンスでもある
そんな華蓮に一歩を踏み出させたのは、思いも寄らない人の一言だった
「では、1日ではなく、小一時間ほどお話したらいかがです?」
普段はおっとり、物静かな山南である
「や、山南さん!!」
「土方君、落ち着きなさい
新撰組の参謀である伊藤さんが、たかが小姓と話したいと言ってるだけでしょう
それくらい、大したことではありません
湊上君にとっても、光栄なことです」
──!!
──なるほど
山南は、この機会を有効に使え、と思っているらしい
確かに1日は辛いが、小一時間程度ならどうってことはない
「はい、ではそのお話、受けさせて頂きたいです」
迷いもなく、伊藤を見つめる
「土方君、いいかな?」
「……蓮がいいっつーなら、俺が断る理由はねぇだろ」
悔しそうに土方は華蓮を一睨み
──また後で怒られるだろうなぁ
それでも、華蓮だって歴史を変えるために何かをしたかった
伊藤の存在に気づかなかったからこそ、だ