海風の如く
夕餉の後、片付けが終わり次第
と、伊藤と約束を交わし、あっという間にその時間になる
土方には散々注意されたが、これはやはりいい機会なのだろう
伊藤がどうでもいい話をするためだけに、華蓮と二人になるというわけではないはずだ
何か意図がある
そんな雰囲気がプンプンしていたのだ
「失礼します、湊上です」
全身に鳥肌が立っているのがわかる
それほど、緊張しているのだ
伊藤の本性を知る機会たということは、同時に華蓮の秘密もバレる可能性がある
これは賭に近い
「どうぞ、お入りなさい」
華蓮は平常心と心の中で唱えながら、襖を開け、伊藤の部屋に入った
表情を伺う限り、伊藤はいつもと変わらない
「今晩はお誘い頂きましてありがとうございます」
とにかく挨拶
お互い見つめ合って無言になることだけは避けたかった
華蓮も伊藤の目が苦手なのかもしれない
「ふふっ、別にそんなお世辞はいらないよ
君は僕となんて話したくないのだろう」
確かに以前はそうだった、しかし今は──
「いえ、そのようなことはございません
私も伊藤参謀のような頭脳を持った方に憧れていますので」
まあ、あながち嘘ではない
伊藤の頭脳に憧れてはいるが、伊藤本人はまた別だ