海風の如く
「なんだか、会ったときより晴れ晴れとした表情しとる」
坂本は豪快に笑う
「え、私、そんなに暗い顔してました?」
「路地からそっと見たときは落ち込んでるように見えたぜよ」
確かに、考えが行き詰まっていて、焦っていたとは思う
だけど、焦っても仕方ない
先のことばっかり考えるんじゃなくて、今自分のできることをやろう__坂本と中岡に会ってそう思えた
「実は考え事をしてたんです」
「……で、答えは出たのか?」
「はい、中岡さん
お二人のおかげで、初心を、私が今何をすべきなのかをもう一度確かめられた気がします」
坂本の暗殺も、鳥羽伏見の戦いも、なんとしてでも止めねばならない
だが、それ以前に今、やることをやらなければ、本当に変えたい出来事を変えることはできないだろう
「そうか、それならよかったぜよ!!」
「私もお会いしたかったので、今日は本当にありがとうございました」
襖からは赤色の光が差してきている
そろそろ帰らなければいけないだろう
「いや、それはこちらも同じだ
お前が池田屋で一歩踏み出していなければ話は進まなかった上に、この前の事件は酷いものになっていただろう」
「……中岡さん………………」
中岡はお世辞を言ったりする人ではないから、余計に嬉しい
別に褒められるために行動しているわけではないが、自分がやったことにすこしだけ自信を持つことができた
「すまんな、華蓮」
突然、坂本が頭を下げる
「え、何ですか、いきなり?」
「おまんのようなおなごに、こんな大きなことを背負わせちょる」
現代ではそこまでではないが、この時代では、男は女を守るもの
政治や武士の戦いに女が関わるなどありえない、という考え方が強いのだ